短編 銀新

□家庭的な子ってやっぱポイント高いよね
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破れた袖を見てため息が零れた。

「あ〜、くそっ」

繊維に逆らったように裂かれた布は肩まで達している。
繕う事も出来るが、やると思うと面倒だし。
だけど同じのが後三着あるが、1つ減るだけでも随分違う。
大体、何で釘なんて飛び出してんだよ手抜きですかコノ野郎。
いや、引っかかった時に手で取らなかった俺も悪いけど。
まぁ、仕方ねぇ、新しく新調するか…金有ったけ?

「たでーま」
「あ、お帰りなさい。銀さん…袖どうしたんです?」
「あ〜引っ掛けちまって」

たすき掛けをし部屋の掃除をしていた三週間前に雇った地味なメガネ助手の新八が箒片手に出迎えてきた。
最初は慣れなくてムズ痒かったが、慣れればいいもんだと思う。

「新調する金有ったっけ?」
「そんなお金あったらご飯買えますよ。これぐらいなら、直せますから脱いでください」
「…直す?」
「はい」
「…誰が」
「私が」

何言ってんだこの人?と首を傾げる新八が、かわい…じゃなくて!

「…じゃあ頼む…」
「はい、ソファに置いといてください。掃除終わったらやりますから」

そう言うと、居間に戻り掃除を再開する音がする。
俺はハッキリしない頭を整理しながら、しばらく玄関で立っていると新八がひょこりと顔を出し「上がらないんですか?」と聞いてきたので慌てて玄関を上がる。

隣で一針一針丁寧に仕上げてる姿を横目で見ながらジャンプを読むフリをする。
裁縫箱なんて有るのか?と思ったが本当にあった。どっから見つけてきたんだか。

「…………」

なんつーか…体中がムズ痒い。
自分の着物を縫ってくれる奴なんて今まで居なかったから、なんか落ち着かない。
沈黙が耐えきれず取りあえず思った事を口に出してた。

「…慣れてんな」
「ええ、一通り女の嗜みは出来る様に姉上に叩き込まれたんです」

ふにゃと新八の顔が綻ぶ。
こいつがそんな顔するのは決まって姉ちゃんの話をする時だ。
こいつが此処に来て三週間立つ、その中で俺が気づいた事だ。
二人きりの姉妹で、共に支え合ってきたこいつらはお互いを大事に思ってる。
特にお妙は新八に対して重度のシスコンだ。
目に入れても可愛いと思うなら暴力も控えろよと思うけど、あれがアイツなりの愛情表現なんだろ。

「なら姉ちゃんも出来んのか」
「えぇ、姉上も母上に教わったって言ってました。料理以外はそつなくこなせますよ」
「じゃあオメェの母ちゃんも料理ダメだったのか」
「いや、普通だったと思いますよ。姉上のアレは…何ですかね…」

丁寧に縫っていく様子をジャンプそっちのけでジッと見つめてると新八が少しだけ可笑しそうに笑う。
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