真選組

□満月
1ページ/1ページ


今宵は満月、獣が騒ぐ。
切り捨てられた骸は、哀れ声無く地面に倒れる。
切り伏せた人影はそれに目も繰れることなく、また一人向かってきた敵を切り捨てた。

パタタッと血痕が地面に飛び散り、骸になった人から血が溢れ着物を染め上げる。
辺りが血に染まり静寂に包まれたのを確認してから、月光の下、赤い着物を身に纏うことになった近藤は懐から懐紙を取り出し刃の血を拭う。

「…派手にやりすぎた…」

顔に飛び散った血を拭おうにも、右半身、左手がどっぷり敵の血に染まりとても拭って落ちるものでもない。
フッと月明かりに気付き、顔を上げる。
空の真上には満月が浮かび、近藤とその惨状を照らしていた。

「満月の日は血が騒ぐ…って狼男か?」

あぁ、でも私の場合は狼女かっと、少し的外れな事を呟きながら、辺りを見渡す。
確か、あの辺りに荷物を放り投げた筈…。

「あぁ、あった」

茂み放られた風呂敷包みを拾い上げようとして、止まる。
久々の休暇に、土方達に黙って少し遠出したらこの様だ。
攘夷志士を名乗る侍が数名、近藤を奇襲してきた為、慌てて皆の土産にと買ってきた荷物を投げ捨て応戦したのだが…。

「中身、グチャグチャかなぁ。折角、おばちゃんに頼んで
あんこ多めのヤツ選んでもらったのに」

真っ赤に染まった掌を見つめどうするかと思案する。
というか、この血に染まった姿で、真夜中とはいえ道を歩けない。
真選組の隊服を着ていればいくらかマシだったのだけど、今日は休暇と言うことで着流しを着てきている。

「どっかに水…」
「近藤さん!?」
「ん?その声山崎か?」

後ろを振り返ると両手一杯にあんパンを抱えた山崎が近藤に向かってきている。
どんだけあんパン好きなんだっと苦笑していると、山崎は荷物を放り投げ近藤の両腕を掴む。

「な!け、怪我、!」
「落ち着け、私の怪我じゃないよ。相手の血だ」

視線だけを動かすと山崎はホッと一息つく。

「朝からいないと思ったら」
「すまんすまん、ちょっと戸尾山のまんじゅうが食いたくなってなぁ。あ、みんなにお土産あるぞ?」
「そういう問題じゃ!…はぁ〜、もういいです。局長には何言っても無駄だし、ただし後で副長にがっつり叱られてくださいよ」
「…朝までお説教コースかなぁ?」
「そうでしょうね。覚悟してくださいよ」

山崎は近藤の風呂敷と自身のあんパンが入ったレジ袋を持ち車に向かって歩いていく。
その後ろをゆっくりと着い
ていく近藤は、後ろを振り返り、自身によって作り上げられた惨状を見つめる。
血が付着した並木道の木々に、地面に倒れ伏した屍達。
ゾワリと身体が震える。
恐怖からではない、血に反応して自身の獣が呻いてるのが解る。

「局長〜!?早く行きますよ!?」
「あぁ、今行く」

血に染まった両の手を袖の中に隠し山崎の元に向かう。

そして気付いた様に空を見上げる

 あぁ 今宵は満月だ


end

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ