真選組
□男前だよ近藤さんっ!
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「本当に、申し訳ございません」
畳みに膝をつき、気に入らない重臣に深々と頭を地面に擦るぐらい深く土下座した近藤を見て土方は身を切る思いだった。
感情がコントロール出来ないほどガキではない、だけど、時には我慢できない事もある。
元々我慢とはほど遠い性格だ、所詮そこらのチンピラと変わらない自身の性格を理解している。
今日がそのいい例だった、攘夷志士に狙われている重臣の身辺警護、気は乗らないがこれも勤めと割り切り警護していた。
だが、その重臣は真選組をバカにしたのだ、―――それも近藤を…。
『あの女、どうせあの身体で、他の奴らのご機嫌取りをしているのだろ?』
その一言でカッと頭に血が上りその重臣の顔を思いっきり殴りつけた。
その場にいた山崎や原田が止めなかったら今頃刀を抜き血祭りにしていたかもしれない。
真選組をバカにされるのはいい、慣れた、聞き流せばいい。
だが、近藤をバカにされたのだけは許せなかった。
自身が命を賭し、守ろうと決めた唯一の人を―――。
「ふん、本来なら腹を切って詫びろといいたいが…近藤、お前今夜わしの相手をすれば許してやろう」
その言葉に今度こそ切り殺してやるッ!と、刀に手をやろうとしたら場違いな豪快な笑い声が響いた。
唖然と目の前の背中を見つめる。
「恐れながら、私を抱いても面白くもなんともないですよ!」
ニッと人懐っこい笑みを浮かべた近藤は、制服の上から身体に指を滑らせる。
何処か色香を含ませる行動、だが、近藤の言葉に重臣は顔色を悪くし始める。
「私の肌は、そこら辺の娘さんみたいに綺麗な肌はしてませんし、この身体は幾度となく血と臓物を浴びております」
「この間の捕り物でも、随分傷をこさえましてなぁ、未だに身体中に刀傷が残ってるんですよ」
「オマケにここ、二、三日忙しくて風呂にも入れなくて、下着なんて三日目だし、制服なんて一週間洗ってないんです」
「こんな美しくもない血臭のする女を抱いても面白くもないですが、お相手いたしましょうか?」
悪意無き笑みを浮かべた女にその場にいた男達はゴクリと喉を鳴らせる。
「失礼しました」と頭を下げ部屋を後にする近藤の後ろを土方は黙ったまま付いていく。
「プーッ!見たかよトシ!あの顔『んげッ!』ってイヤそうな顔してたぜー!見物だったなぁ!」
「…………………」
「トシ?」
「…すまねえ近藤さん…軽率だった。局長のあんたにあんな思いさせる為に副長してんじゃねえのに…」
「バカだな、頭下げるぐらいどうってことねえよ!」
ニッといつも通りの人懐っこい笑みを浮かべた近藤が頭を下げる土方の頭を撫でる。
「俺はお前を守るためだったらなんだってするつもりだ。土下座だろうが、なんだろうが俺の大事な戦友を救えるなら安いもんさ」
「…………………」
「だから、気にするなトシ、オメェはオメェのしたいことをしな」
クシャリと最後に一撫でした近藤は笑みを浮かべたまま去っていく。
その背を見つめながら、土方は撫でられた頭をクシャリと撫で、熱い顔を俯かせる。
「…あんた、男前すぎだろ」
あぁ、これで惚れない奴がいるものか―――
end