‡豊玉発句集‡

□残暑
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俺の部屋から聴こえる音


蝉の声や

風による木々のざわめき

それを掻き消すほどの隊士たちのにぎやかな声



その中には彼奴の低く心地のよい声は含まれない


当たり前だ。
ここは新撰組の屯所 彼奴がこんなところに現れるわけはないのだ。


いつから俺は彼奴の声…いやっ、姿を探すようになったんだろうな。


馬鹿らしい


そんなことよりもこの仕事を終わらせなければ近藤さんに迷惑かけちまう

そう思うのに…


「………くそっ」


考えないようにすればするほど彼奴が浮かんできちまう。


風間千景

鬼の頭領であり、なんの目的かは知らないが千鶴を狙う…新撰組からすれば敵対する相手


そんな相手に俺は恋情を抱いてしまった。

ほんとは認めたくなんかねぇ


新撰組の敵であり、そして何よりも…近藤さんの夢を邪魔する奴らの仲間なんだ彼奴は。


だから、彼奴に…風間にこんな感情を抱いてはいけねぇ。

だが、体で分かっていても心は簡単に俺を裏切りやがる。
最初は憎悪しか抱いていなかった相手に
恋情を抱くなんて誰が思うだろう。
俺自身思いもしなかったのだからな。

低く響く心地よい声や整った顔立ち…そして血色の瞳

すべてがほしい

あの瞳に俺だけが映る時がきたならば俺は至福を味わうことが出来るんだろうな。


だが、彼奴は敵。
いつか剣を交える時がくる。
その時に俺は彼奴を斬ることになるだろう。
もしかしたら、それも悪くねぇかもしんねぇな。

敵対していく間は彼奴と俺がうまくいくなんてありえねぇ。多分、風間たちと敵対関係を脱することになるなんてこの先無に等しい。
なら、最後の最後に俺がこの手で斬り風間の最後を見届けるのも一興かもしれん。


「…なにを考えてるんだ俺は」


…暑さにやられたのかもしれねぇ。


「茶でも淹れてくるか」


今後、風間とどうなるかはわからんが…


「まずは彼奴ももう少し俺を見ればいい…千鶴ばかりではなくな」



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