‡豊玉発句集‡
□Flower
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今日は暖かいな。
いまは5時限目であるが…風間には授業等関係ないようで、ぼんやりとそんな事を思いながら会長専用の椅子に座り、背もたれに背を預け中庭を眺めていた。
「……んっ」
中庭に見知った姿をみつけた風間は椅子から立ち上がり生徒会室を出ていく…その後ろ姿はどこか嬉しそうだ。
「…なにをしている」
中庭まで出てきた風間は先程、生徒会室でみつけた人物に声をかけた。
「おっ、風間くんじゃないか」
声をかけられた人物はしゃがみこみ中庭にある花壇に新たな花の苗を植えているらしい。その格好のまま顔をあげ、そして声をかけてきた人物が自分の愛する人だと気がつくと嬉しそうに爽やかな笑顔をむけてくる。その顔には汗と土が着いていた。
「近藤…」
風間も恋人である近藤の顔を見て嬉しそうである。
土のついている顔を見てくすっと笑うと目線を合わせる為、自分もしゃがみこみ躊躇うことなく土で汚れている顔に手を伸ばす。
「土がついてるぞ」
風間は手で近藤の頬についている土を掃おうとするが、その動きを近藤が止める。
「風間くんの手が汚れてしまう」
「…別にかまわないが」
ありがとうと囁くと近藤は首に巻いていたタオルで自ら汚れていた顔を拭った。
その行動が風間が汚れないように近藤の優しさだとわかっていても、自分のことを拒否されたようで悲しいと感じてしまった。
近藤から目線を逸らし、視線を地面に向けていると近藤が顔を覗き込んで来る。
「そんな顔をしないでくれ」
近藤は嵌めていた軍手を外すと、風間の頬を両手で優しく包み目線を合わせる。
そして、顔を近付け軽く口づけをしてきた。
「んっ」
ほんとに軽い口づけですぐに近藤の唇は離れてしまったが、その予想外の行動に風間は固まり思考も停止してしまったようだ。
「風間くーん」
思考が止まった風間を呼び覚ますように近藤は頭を撫でながら名前を呼ぶ。すると風間はゆっくりと瞬きをし近藤を改めて確認した瞬間、顔を真っ赤に染めた。
「こ、こん…な…」
「落ち着いて風間くん」
「…こんな場所でキ、キスなんてするなっ」
「風間くんが悲しそうな顔をしていたから」
「それは…」
「さっきのは風間くんに触られるのが嫌だったわけじゃないんだよ」
「それは、わかってる…だからと言って…こんな場所で…」
恥ずかしいではないか…そう呟いた風間はチラッと近藤を見る。
その顔は先程より赤みが引いていたが、まだほんのりと頬は朱に染まっていた。
「すまなかったね」
困った顔で、でも愛おしくてたまらないと言った様子で己をみつめ謝る近藤を見た風間は胸が熱くなり、再度顔に熱が集まってくるのを感じた。その顔を見られまいとその場から立ち上が近藤に背を向ける。
「風間くん?」
突然の行動に対処できず近藤は立ち上がっている風間を見上げ名前を呼ぶ。
「…校長室まで行くぞ」
「校長室?」
「…そこに行けば…何も気にせず近藤に触れられるだろ」
そう言うと足早に歩いて行ってしまった。近藤は言われたことに理解した瞬間、目を見開き驚いたが、すぐに目を細め先に歩いている恋人の背中をみつめる。
「ほんとに風間くんは愛らしいな」
そう呟いた後、恋人に置いてかれないようにと慌ててさっきまで使用していたスコップとバケツを手に取る。
「待ってくれ風間くん」
季節はずれの暖かい午後の陽射しがさすなか
先程、近藤の手によって植えられた花たちは恋人達を見送るように風と共に幸せそうに揺れていた。
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