青い春に伸びる影

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──もう一度、会って話をしたいな










「あれが噂の“野獣”かぁ…」

放課後の生徒会室で、涼華は頬杖をつきながら呟いた。悩ましげな彼女の姿を不思議そうに見ながら、生徒会メンバーは首を傾げる。

「珍しいね。涼華が悩み事なんてさ」

仕事しないのはいつものことだけど、と七海が入学式の報告書をめくりながら笑う。涼華は赤い瞳を不機嫌そうに細め、口を尖らせた。

「ななどんみたいに能天気じゃないんだよ、私は。私だって悩みの一つや二つ……」
「本当に二次元的だねぇ、涼華は! 悩んでる姿も絵になってるよ。学年で、いやむしろ学校で一番の美女は何をお悩みなの??」
「うるさいイタ子。脳内お花畑は黙っててよ」

しまいにはそのムカツク眼鏡割るよ、と涼華が言うと、イタ子こと花は黙って書類整理に移った。

はぁ、ともう一度溜息を吐いたところで、見兼ねたのか玲奈が口を開く。

「ねぇ、何をそんなに悩んでるの? 涼華らしくないよ」
「私らしく……?」

涼華は思いついたように目を見開くと、机を平手で叩いて立ち上がった。いきなりのことに驚くメンバーは、ビクリと肩を震わせる。
涼華は玲奈の方に振り向き、誰もを虜にしそうな笑みで言った。

「初恋は叶わないって言うけど、私はそんなの信じないよ!」

そして、そのまま生徒会室を飛び出していった。メンバーは呆然とした後、「あの涼華が恋!?」と見事にハモって見せた。

「あの涼華を振り向かせるなんて、どこのイケメン!?」
「きっと二次元的なイケメンね!」

七海と花は涼華を追いかけて走る。その後ろから、やれやれと言った様子で玲奈も歩きだした。

涼華の姿はすぐ見つかった。



「見つけた!」


涼華は周りから頭一つ飛び出ていた金髪の人物の腕を掴んだ。明らかに周りは騒つき、廊下に居た生徒はその場から離れていく。

「お前、昨日の…」
「葉月遊弥さん! 一目惚れしました、私と付き合ってください!」
「……は?」

よく通るソプラノが、廊下に響く。涼華に腕を掴まれ、熱烈な告白を受けた少女──葉月遊弥(はのづき あずや)は切れ長の鋭い目を間抜けに見開いた。
涼華は更に遊弥の手を握り込み、きらきらとした眼差しで話を進める。

「昨日、望まれないナンパから助けられたあの瞬間から、あなたのことが忘れられなくて! コレが恋なんだって自覚したの!」
「いや……あの…」

周りに居る生徒は、いつ遊弥が暴れ出さないかと気が気でない様子で、教室からこちらを覗いている。それに気付いた遊弥は、気まずそうに俯くと、涼華に言った。

「あの時、アタシに関わるなって言ったろ。…お前だって、アタシの噂は聞いて「お前じゃなくて涼華。噂は聞いてるけどそれとこれは別」」

遊弥の話を遮り、涼華はウインクする。

「返事はいつでも良いから」
「……あ、オイ、ちょっと……!」

戸惑ったままの遊弥を置き去りにし、涼華は後ろからこちらを覗き見していた生徒会メンバーの方に歩いていった。

「覗きなんて悪趣味〜」

涼華が口を尖らせると、花が興奮した様子で言う。

「まさか涼華の初恋があの“野獣”だなんて! まさに美女と野獣! なんて二次元的!!」
「危ないよ、あんな人と関わったりしたら……」

玲奈は不安そうに涼華の顔を見る。
ここまで涼華が心配されるのには理由がある。涼華の初恋の相手、葉月遊弥は、校内で最強の不良だと恐れられているからだ。
売られた喧嘩は必ず買い、そしてその相手を完膚無き迄に叩き伏せるという物騒な伝説を持っている。身長も高く、まるでライオンのたてがみのような金髪をしていることから、“野獣”と呼ばれている。
涼華は誇らしげに胸を張ってみせた。

「絶対に振り向かせてやるんだからね!」




美女は野獣に恋をする
当たっていくけど砕けるつもりは毛頭無い





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皆キャラが濃くて動かしやすいです……

変わったキャラクターが多いですが、楽しんで頂けたら嬉しいです。





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