青い春に伸びる影

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一秒、いや、一瞬ですら惜しいの









遊弥は、朝教室に入って言葉を失った。

「おはよう、ゆーちゃん!」

自分に抱きついてくる人物が誰かは嫌でもわかるのだが、何故この教室に居るのかが疑問なのだ。そして、昨日まで違う人物が座っていた席に、そいつは当然のように腰掛けていた。遊弥はしどろもどろに、自分の腰にまとわり付く少女──涼華に尋ねる。

「な、何でお前がこのクラスに……この席の……山田はどうした?」
「あの冴えない男子のこと? あぁ、クラス替わってもらっちゃった。別に良いでしょ、名前しか出てこないモブキャラなんだし…」

ニコ、と小悪魔全開の笑顔を向け、涼華は嬉しそうに遊弥の隣の席に座る。遊弥は口をパクパクと酸欠の金魚のように開け閉めしながら、戸惑いを隠せずに居た。そんな彼女にたまらない愛しさを感じた涼華は、得意のマシンガントークに持ち込む。

「生徒会の権力とお嬢の財力があればこれくらい楽勝なんだよね。おかげでゆーちゃんと同じクラス&隣同士! いやぁ、お嬢には感謝だよね。持つべきものは友達だと思わない? あっ、私はゆーちゃんと恋人同士になりたいんだけどさ」
「そ、うなのか…生徒会って偉いんだな…」
「そういう訳じゃないんだけど、私、ゆーちゃんとラブラブするために頑張ったの! あっ、そうそう、今度生徒会室に来てよ。てゆーか仕事中私の傍に居て! ゆーちゃんが隣に居てくれたら普段の数万倍頑張れちゃう。あわよくばそのまま一緒に帰ろう!」

遊弥に執拗に絡む涼華に、周りも少し引いていた。しかしこの場合、男女共から人気があり、好意を寄せる者が多い涼華に、熱烈な告白をされている遊弥には、羨望や嫉妬の眼差しが送られていた。

「遊弥ちゃんが隣に居れば仕事が捗るなら、喜んで歓迎だけどね」

ポツリ、とその会話を聞いていたお嬢こと玲奈は、二人に聞こえないボリュームで呟く。涼華がクラスを替わったことで、玲奈は彼女と同じクラスになったのだった。これからあのアツイ光景を毎日見るのかと思うとげんなりしたが、涼華が楽しそうに笑い、本気で人を好きになることができた、というのが嬉しいことだと玲奈は思った。

(あんなに一生懸命で、イキイキした涼華を見るのって、初めてかもなぁ…)

涼華に、まるで子供を見守るような眼差しを向け、玲奈は自然に口許が緩んだ。

「ゆーちゃんの匂いするぅ〜!」
「くすぐってぇからやめろ!」

座っている遊弥に抱きついて首筋に顔を埋めた涼華は、酷く興奮した様子で言った。遊弥は慣れないスキンシップに顔を真っ赤にしながら制止の言葉を叫ぶ。すでにホームルームが始まっているのに、浮かれまくりの涼華は遊弥から離れようとはせず、教師も苦笑してその場を去った。
溜息を吐いた玲奈は、過剰なスキンシップに没頭する涼華に声をかけた。

「ホームルーム、おわったよ」
「あれ、いつの間に? 私既にゆーちゃんしか見えてないわ」

きょとん、と涼華は言う。玲奈は本日何度目かの溜息を吐いた。
遊弥は不思議そうな表情で涼華に尋ねる。

「何でわざわざこんな…クラス替えたり……その…アタシにベタベタしたりすんだよ」

涼華はその言葉を聞いて、驚いたようにウサギのような目を丸くすると、彼女に好意を寄せる者なら卒倒しかねない笑顔で、


「そんなの決まってるじゃん、」




ずっと傍に居たいから、だよ
それ以外にあるわけないでしょ






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これ、楽しいの私だけですね。
そろそろ何か事件を起こそうかと思います。






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