青い春に伸びる影

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君と出会ってから、初めてのことばかり









遊弥は朝から、クローゼットの前で唸っていた。

(誰かと一緒に遊びに行くなんて初めてだ……何着れば良いんだ………)

昨日、涼華から「明日の9時に駅前!」とメールが来た。休み前に言っていた、彼女曰くデートのお誘いだ。
そのため、出かけるために着る服を選んでいたのだが、何を着れば良いのかいまいちわからなかった。スカートは制服以外に持っていない。スエットは流石に気が引ける。ジャージもよれてて来て歩ける状態ではない。遊弥は自分の横着なところに嫌気がさし、深々と溜息を吐くと、唯一生き残っていたスキニーパンツとトレーナーを着て、部屋を出た。

「あれ?ねーちゃん、今日バイト休みじゃなかった?」

リビングで朝食の用意をしていた妹の綺音(あやね)が、不思議そうな表情で尋ねる。この面倒臭がりな姉が、休日に着替えをすることなどまずない。妹に聞かれ、遊弥は頭を手櫛で整えると、どこか恥ずかしそうに言った。

「…ちょっと出かけてくる」
「へぇ、珍しいね。友達と?」

まるで自分のことのようにわくわくした様子で尋ねる綺音に、遊弥は小さく頷いてみせた。そんな姉の様子に、綺音は微笑む。

「行ってらっしゃい。楽しんできてね」

幼い頃から人付き合いが苦手だった姉が、友達と遊びに行くと聞いて嬉しくなった綺音は、機嫌良くトーストを皿に乗せた。遊弥は「時間だから」と言い、トースト片手に玄関へと走る。そして思い出したようにぴたりと足を止め、ぎこちなく「行ってきます」と告げたのだった。





待ち合わせの時間の五分前に、待ち合わせ場所に指定していた駅前に到着し、遊弥はほっと一息吐く。遅刻はしなかったようだ。まだ涼華は来ていないのか、彼女の姿は見えない。走った所為で乱れた髪を手櫛で整えていると、聞き慣れた声がかかった。

「ゆーちゃん!」
「……っ!」

いつものあだ名で呼ばれ、腰に抱きつかれて思わずビクリと体を震わせてしまった。そんな遊弥の様子を見た涼華は、楽しそうに笑う。

「あはは、緊張してんの?可愛いなぁ、ほんとに」
「……っ…てめぇ……」

文句の一つでも言ってやろうと遊弥は振り向いて、そのまま制止してしまった。振り向いた先に立っている涼華は、ふわりとしたくるぶしまでのワンピースに、デニムの七分袖のジャケットを羽織っている。髪はゆるくウェーブがかかっており、ほんの少しだけ化粧もしていた。唇がリップグロスで光っている。

(……可愛い、じゃねーかよ…)

自分の格好と比べると点と地程の差がある。何だか恥ずかしくなってきて、怒鳴る気も失せてしまい、そのまま俯いてしまった。その時、涼華が顔を真っ赤にして震え始めた。どうしたのだろう、具合が悪いのか、と思い、遊弥は屈んで涼華に目線を合わせる。

「どした?具合、悪いのか…」
「ゆーちゃんっっ!デートの前に記念撮影しよう!」
「は…?」
「ダボッとしたトレーナーの襟からむき出しの肩がセクシー!そしてゆーちゃんの細くて長い脚を包むスキニーがゆるい感じのトレーナーと相まって素敵!要するにエロイ!どうしよう、私心臓保たない!」

涼華が一気に喋るので、どこで息継ぎをしているのだろうと考えてしまう。しかし、それよりも、自分の格好を褒められているのだと理解して(言い方はアレだが)、何だか気恥ずかしくなってしまった。
遊弥がしばらくモジモジしていると、クス、と涼華が笑った。

「緊張しなくても大丈夫。ね、私がエスコートしてあげるからさ」

差し出された手を握り返すのに、不思議と躊躇いは無かった。








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