青い春に伸びる影

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私の知らないところで、気持ちはすれ違う







例の企画書が無事職員会議を通過し、クラスの方に回ってきた。学級委員長が黒板の前に立ち、声を張り上げている。

「学校祭の新企画が生徒会より発表されました。企画名は『クラス対抗ファッションショー』。スタイリストとモデルをそれぞれ選出します。立候補・推薦どちらでも構いませんよ。男女は問わないそうです」

モデルという単語にクラスは騒つく。その時、一部から声が上がった。

「そうだ、うちのクラス涼華ちゃんが居るから優勝貰えんじゃないの?」
「そうだよ、涼華。出なよ」

校内一の美女が居るクラスだ。当然、涼華にモデルをやってほしいとクラスメイトは頼む。涼華も頷いた。

「そうだね。私出るよ」

その言葉に、委員長をはじめクラスが盛り上がる。しかし、涼華は意外な発言をした。

「スタイリストとしてね。モデルはゆーちゃんじゃなきゃイヤ」
「えっ………」

クラスは静まり返り、ほぼ全員が遊弥に視線を向ける。遊弥もまさか自分に話が来るとは思っていなかったのか、意外そうに目を丸めた。クラスメイトは焦り始める。

「えーっ、何で?確かに涼華はセンス良いけど、絶対モデルの方が向いてるって」
「そーだよ。まぁ涼華ちゃんがスタイリストならコーディネートは勝てそうだけど、モデルがさぁ…」

野獣じゃ、ねぇ……?

誰がともなく呟く一言。遊弥は所在なさそうに俯いてしまい、そんな彼女の様子を見た涼華は冷たい無表情だった。

「ねぇ、私じゃダメ?」
「あっ、うちも涼華とやりたい!」

女子が次々と涼華に声をかけていく。男子は涼華のモデル姿が見れないと知って、もうどうにでもなれよオーラを出していた。
涼華は群がる女子を「ヤダ」の一言で一蹴した。そして、男女共に虜にしてきた殺人的に魅力のある笑みを浮かべると、遊弥の席の前に立った。

「ねぇ、ゆーちゃん。モデル、やってよ。私が可愛くしてあげる」
「何勝手な事言ってんだよ!そんなもんアタシに出来るわけ…」
「やるでしょ?」

涼華は遊弥の言葉を遮る。笑顔の威圧は、遊弥に拒否権が無いことを暗に物語っている。遊弥は頷くしかなかった。

「委員長、決定」

涼華が黒板の方に向き、ニコッ、と微笑むと、放心していた委員長が、エントリー用紙を埋めた。

「みんな、安心して。優勝は絶対するから」

騒然としたホームルームの終わりを告げる、鐘が鳴った。クラスの女子たちは納得の行かなそうな顔をして、ヒソヒソと何かを話していた。





「ホントに強引なんだから、涼華は!」
「えへへ〜」

休み時間、玲奈が呆れたようにため息を吐くと、涼華は悪戯が成功した子供のように笑った。そんな彼女の様子を見て、玲奈は再びため息を吐く。

「完全に遊弥ちゃん困ってたでしょ。確かに背は高いし、体型もスラッとしてるから、ステージではよく映えるだろうけど……」
「うん、さすがお嬢!ゆーちゃんのことわかってるねぇ。正直な話、下手なモデルより可愛いしスタイル良いんだよね。クラスのバカな連中は気付いてないんだけどさぁ」

飄々と語る涼華の瞳には、怒りの感情が滲み出ている。先程のホームルームの雰囲気が彼女の気に障ったのだろう。よりにもよって、涼華の大好きな遊弥を、野獣呼ばわりされたのだから。

「まぁ、ゆーちゃんの魅力がわかるのは私だけで良いんだけど」

涼華の呟きに、玲奈は苦笑してしまう。

(なんつー独占欲。これは怖いぞ……)

そう言えば、遊弥の姿が見当たらない。涼華はキョロキョロと辺りを見渡す。どうやら教室には居ないらしい。

「どこ行っちゃったのかな…」

涼華は心配そうに言った。








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