青い春に伸びる影

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孤独で臆病なあなたへ



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遊弥は学校を飛び出していた。頭から爪先まで水浸しのこの状態では、授業どころではないと判断したのもあるが、あのまま学校に居て、あの女子達と目を合わせるのが気まずかったからである。それに、涼華に合うのも気が引ける。

(……サボっちまったな…)

根は真面目な遊弥だ。カバンも何もかも置きっぱなしで学校を出てきたことに何となく罪悪感を覚えた。天気の良いこの日に、水浸しで歩いている遊弥には好奇の目線が集まる。長身と金髪だけでも目立つのに、今のこの状態はいただけないな、と遊弥は思った。

人通りの多い商店街に差し掛かったとき、ボンヤリしていたせいで前から歩いてくる不良集団に気付かず、遊弥は彼らにぶつかってしまった。

「…あ」

しかし、背の高い遊弥は大した衝撃はなく、むしろ彼らが驚いていた。

「っ、何だよお前!前見て歩けや!」

真ん中に居た男が声を上げる。それを、遊弥が鬱陶しそうに睨み付けると、その男は少し怯んだのか、僅かに後退りをした。その時、その取り巻きに居た連中が思い出したように口を開く。

「ちょ、コイツ、あの野獣ですよ。最強の女子高生って噂の…」

“野獣”

その言葉が、遊弥の心に突き刺さる。何故今更になってからなのだろう…今まで散々言われてきた言葉であるのに。

「オイ、野獣だぞ」
「よくわかんねーけどボーッとしてるし…」
「今ならやれんじゃねーか」

いつの間にか、この商店街には街中の不良が集まっているようだった。派手な色のシャツを着た者も居れば、遊弥のように制服を着た者も居る。そして、はっとした。

(囲まれてる…)

辺りを見回すと、自分から見て360度、不良たちがこちらを見ている。そしてその周りには、野次馬が居るのだろう、「何だ、喧嘩か?」などとこちらに興味を示しているのがわかる。
少しばかり荒れた街だ。このくらいは日常茶飯事であるため、住民のほうが面白がっていることもある。

身構える暇もなく、不良達は鉄パイプや釘バットを持って、遊弥に向かって襲い掛かった。











昼休み、昼食を食べようと生徒会メンバーで集まったが、遊弥が居ないことに気付いた七海が不思議そうに首を傾げた。

「あれ?涼華のダーリンは?」
「メールも電話も反応無しで……学校にも居ないみたいだし、何処に行っちゃったのかな……。サボったりするような子じゃないのに」

涼華は不安そうに答える。その時、花がパンを口に運びながら言った。

「そういえば、女子に囲まれて何か言われてたよ?あれが呼び出しってヤツ?何か二次元的だよね!」
「それ、いつ!?」

反応を示した涼華に、花は少し唸ってから、「ホームルームのあとだよ」と答えた。

「…………」

まさか、クラスでモデルを選出したときに不満を持った女子が、遊弥に何か言ったのかもしれない。そんなくだらない理由で、と思ったが、女子は何をしでかすかわからない。

もやもやしたまま教室に戻ると、数人の女子が涼華のもとにやってきた。涼華が彼女達に向き直ると、その内の一人が言った。

「ねぇ、野獣には関わらない方が良いよ」

涼華は怪訝そうに眉を寄せると、「どういうこと?」と尋ねた。

「だって、いつも喧嘩して危ないじゃん。巻き込まれたらどうすんの?」
「口も悪いし、乱暴じゃん」

口々に遊弥を悪く言う女子に、涼華は眉を寄せる。彼女達に、遊弥の何がわかるというのだ、声を大にして叫びたかった。しかし、口を開き掛けた涼華の耳に、衝撃的な言葉が飛び込んだ。


「商店街で、野獣と不良が喧嘩してるらしいよ!」
「マジ?危な〜い。遠回りして帰るかな」


まだ何か言っている女子を無視し、涼華は教室を飛び出した。途中で玲奈や他の生徒会メンバーと擦れ違ったが、適当にあしらって走った。







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