青い春に伸びる影
□11
1ページ/1ページ
私には、あなたが必要なんだ
11
「……………ん…」
ふわり、と柔らかい感覚が、自分の全身を包んでいる。遊弥は、ぼんやりと焦点の定まらない瞳を揺らした。見慣れない天井、高級感溢れるシーツの匂い、質の良いふわりとした掛け布団や、ベッド。自宅ではない。
「…何処だ…此処……」
「あっ、起きた?」
遊弥の呟きに、返事があった。思わず勢い良く起き上がったが、ズキンと頭が痛んで、遊弥は顔をしかめた。
「あぁ、いきなり起き上がっちゃダメ。頭を強く殴られてたんだから、痛いでしょ」
まるで母のようにこちらを覗き込んでくる顔には見覚えがあった。確か、涼華の友人で、生徒会のメンバーだったはずだ。恐る恐る、遊弥は尋ねた。
「ここ…お前の部屋か?」
「違うよ。来客用の部屋。こういう時に備えて、いつも掃除してあるの」
「……他にもいっぱいあるのか?」
「まぁね。うーん、クラス全員で押し掛けられてもギリ平気かな……」
黄色いリボンを揺らしながら頭をひねる彼女は、かなりの金持ちらしい。遊弥は世界の違いに驚きながら、自分の置かれている状況を整理しようとする。
「えーと…」
遊弥が唸り始めると、少女が答えた。
「あ、私は新玉玲奈。涼華の友達なんだ。玲奈で良いよ。遊弥ちゃんが喧嘩して、倒れちゃったから、とりあえずベッドと医者が居るウチに運んだってわけ」
そう言われてみれば、頭には包帯が巻かれている。何だか甲斐甲斐しく手当てされていることに気付いて、恥ずかしくなった。遊弥が何を話せば良いのかわからずに俯いていると、不意に、玲奈が真剣な声色で言った。
「遊弥ちゃんはさ。涼華のこと、どう思ってるの?」
「…え…」
突然の問い掛けに、戸惑いを隠せない遊弥だが、玲奈は構わずに続けた。
「今日、遊弥ちゃんが倒れて、涼華が私に電話くれたの。“ゆーちゃんが死んじゃう!”ってね。あんなに必死な涼華なんて初めてだったし、商店街に着いたら更にびっくり。あんな小さい体で遊弥ちゃんのこと背負って、こっちまで来たの」
「…………」
何で、と思った。無言のままだったが、そんな遊弥の表情を理解したのか、玲奈は続ける。
「涼華、本気で心配してた。学校飛び出して、探しに行って」
「……何で、アタシなんかのために…」
怯えたような表情で呟く遊弥に、玲奈は再び尋ねた。
「ねぇ、どう思ってるの?涼華のこと」
遊弥はしばらく考えたあと、ポツリと言った。
「……よく…わかんねぇ…」
「はぁ?」
玲奈が拍子抜けして声を裏返すと、遊弥は必死になって付け加えた。
「あ、ぁ、その…最初は…少し苦手だったけど…最近は……一緒に居ると、何か……」
───好きだから一緒に居るんだよ
「…安心する……って言うか……だから……」
(きっと、)
「アイツのことは…嫌いじゃない」
玲奈はそれだけ聞くと、満足したのか「そっか」と言い、笑った。
「じゃあ、涼華呼んでくるね。心配してたからさ」
玲奈はそう言って、部屋を出ていく。遊弥は一人、悶々と考え込んだ。
───アンタと違って友達も多いし、モテるんだから
どうしても、頭の中で女子が言っていた言葉がループする。
───危険な道に引き込まないで……
「……はぁ…」
「溜息ついてどうしたの?まだ頭痛い?」
「っ!」
涼華が部屋に入ってきていた。遊弥は突然の訪問に驚き、大袈裟に肩を揺らした。しかし、涼華の顔を見て表情が曇った。
(目許、赤くなってる)
泣いていたのだろうか。遊弥のことが心配で。
「それにしても良かった。あんなにいっぱい血が出てたから、死んじゃうかと思ったよ」
「バカか。アタシがなんて呼ばれてるか知ってるだろ。あんなモン怪我のうちに入んねぇよ」
いつになく気弱な涼華を安心させようと、遊弥は気丈に振る舞ってみせたが、涼華は納得しなかった。
「心配なものは心配だよ!私、ゆーちゃんに何かあったら生きてけない」
「……大袈裟だな」
「そんなことない!ねぇ、ゆーちゃん、約束して」
涼華はぎゅ、と遊弥に抱き付いた。遊弥は間近に伝わる彼女の鼓動に、何だかドキドキしてしまった。
「もう、危ないことしないで」
泣きそうな声で言われた言葉。いつもなら、「余計なお世話だ」と突っぱねていただろう。しかし、遊弥は穏やかな表情で頷いたのだった。
野獣の心は少しだけ、美女に傾いた
(ゆーちゃんのおっぱい、やーらかい……)
(どさくさに紛れて…何してんだコノヤロー!)
=====================
ちょっと進展した…かな?
長くなりそうです。
ナチュラルに玲奈が怖い子。
ブラウザバックをお願いします
.