青い春に伸びる影

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私の気持ちはイライラ



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学校祭が近付き、廊下はバタバタと人が行き交い、教室内では学級展示の制作が行われていた。喫茶店をやるクラス、映画館を作るクラス、テーマパークを作るクラス、プラネタリウムを作るクラス…それらは様々だ。涼華のクラスも例外ではなく、今回テーマにした“日本の夏祭り”の屋台など、展示物を作っていた。

「葉月さん、職員玄関からベニヤ4枚持ってきてくれる?」
「わかった」

涼華の大好きな遊弥は、さっきから教室と玄関を行ったり来たりして、屋台に必要な道具を教室に運んでいた。女子にしては(下手をすれば男子よりも)力持ちな彼女は、こういった行事の時に運搬係としてよく駆り出されていた。
涼華は屋台のメニューや接客について話し合っているため、遊弥とはまったく触れ合えなかった。

(カップルでイチャイチャしながら準備をサボるって、学祭準備の醍醐味のような気がするんだけどな…)

涼華が不機嫌な理由はそれだけではなかった。

「あっ、葉月さん。使えそうな木材出来るだけ持ってきてよ」
「了解」

ベニヤ板を持ってきて一息吐いていた遊弥に、また違う生徒が声をかける。遊弥はそれに素直に頷き、再び廊下へと消えていく。
この状況が、涼華のイライラの最大の原因だった。

(普段は野獣呼ばわりして近付きもしないくせに…こういう時だけ都合良いんだから…)

おそらく遊弥自身も、自分がただ単に皆に都合良く使い走りとして扱われていることを自覚しているだろう。しかし、人とのふれあいを避けているとはいえ、心の奥底にある、人と関わりたいという気持ちには勝てないのだろう、という考えに至って、涼華は溜息を吐いた。

(私に甘えれば良いのに…)

本人に言ったらバカにするなと一蹴されてしまうため(照れ隠しだとわかっているが)、なかなか言い出せないでいた。そんなことを悶々としてうるうちに、涼華がボーッとしている間に話し合いが終わっていたのか、涼華に声をかけて数人の女子が帰宅する準備を始めた。廊下を見ると、まだ遊弥の姿は見えない。
遊弥不足を解消するついでに、彼女を手伝ってあげよう、と思い立った涼華は、そのまま教室を飛び出した。







遊弥は、手当たり次第に使えそうな木材を近くの廃材置場から掘り出し、作業の中で流れた汗を軍手で拭った。
こういった行事の時になると、自分に話し掛けるようになるクラスの連中には、正直な話、嫌気がさしていた。

(それでも素直に頷いちまうのは、きっと…)

これ以上皆に嫌われたくない、見放されたくない、という思いが、心の奥底に眠っているからだろう。自分が誰かに必要とされている、頼りにされているということを実感し、自分がここに存在する理由を無意識に探している。そして、そんな気持ちを自覚しながら周りに嫌悪しか抱けない自分に対しても、嫌気がさしていた。
遊弥は、いつかの工事現場のバイトの時に購入したつなぎに、むんむんと熱気がこもるのを疎ましく思いながら、いったん作業を中断して座り込んだ。

「あつ…」
「お疲れッ、ゆーちゃん!」
「っひぁ!?」

独り言を呟いたつもりだったが、返事があった上に首筋にヒヤリとした感触があり、遊弥は反射的に肩を跳ねさせた。
遊弥がばくばくと脈打つ心臓を落ち着かせながら振り向くと、そこには冷たい炭酸飲料を持った涼華が立っていた。涼華は遊弥が束ねた木材を見て、「うわ、こんなに運ぶの」と驚いてから、当然のように遊弥の隣に腰掛けた。そして、ジュースのプルトップを持ち上げると、白い歯を見せて笑う。

「愛しいゆーちゃんの為に、手伝いに来たんだよ」
「そんな格好で運べるわけねーだろ。つーかこの量はお前じゃ無理だ」
「だってジャージ忘れたもん。ね、半分こしよ?」
「良いって。これはアタシの仕事だから」

遊弥は涼華の申し出を断り、手渡されたジュースと涼華を交互に見て、「後で払う」と言ってからそれを喉に流し込んだ。

「いーの。オゴリってことにしといてよ」

涼華は「律儀だなぁ」と付け加え、隣で遊弥の喉が上下するのを見つめていた。








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