青い春に伸びる影

□14
1ページ/2ページ




神様、



14





「おぉ…」

教室には嘆声が漏れていた。生徒の視線の先には、薄く化粧をされ、髪も整えられた遊弥の姿があり、当の本人は決まり悪そうに俯いていた。そこでは、先日言っていた“衣装合わせ”とやらを行っているらしい。

「顔が良く見えないでしょ。こっち向いて」

涼華に言われるがまま、遊弥は顔を上げる。目の前にある涼華の真剣な表情に、改めて彼女が整った顔立ちであることを実感した。髪を手でほぐし、少し空気を含むようにワックスを揉み込む涼華の白魚のような指先に、遊弥はしばし見入った。

「……ゆーちゃん?」

ぼんやりとしている遊弥に、涼華は声をかけた。どうやら一通りメイクは終わったらしい。遊弥は我に返ると、涼華が差し出した鏡で自分を確認した。

「……これ…」

アタシ…なのか?

間抜けな表情で呟く遊弥に、涼華は至極楽しそうに笑った。

「ゆーちゃんに決まってんじゃん!ね?可愛くなったでしょ?」

遊弥は何も言えずに固まってしまった。睫毛は全て上を向き、いつもは鋭い目付きもいくらか緩和されている。頬も少し桃色に色付いており、唇にも何か艶やかなリップが乗せられている。髪には寝癖が無く、代わりにゆるくウェーブがかけられていた。

「本番はこれに髪飾りを付けて、うちらのテーマの“夏祭り”に沿った衣装を着てもらおうかと思ってるんだけど…」

どう?と言いながら首を傾げてみせる涼華に、遊弥はただ頷く事しか出来ない。遊弥はあまりにもお洒落やファッションに疎かった。涼華はそんな遊弥の様子を見て、ぱあっと明るい表情をした。

「気に入ってもらえたみたいで良かった!今日はこのままで居てね!」
「マジかよ…」

爽やかに告げられたその内容に、遊弥は苦笑してしまった。何だか顔に色々な違和感を覚えていたので、すぐにでも洗い流してしまおうと思っていたのだ。席に戻り、玲奈と話し始めた涼華を見送ってから、朝のホームルームの前にトイレに行こうと、遊弥は廊下に出た。

「………柄じゃねーよなぁ」

ふわりとボリュームのあるトップを撫でてから、鏡の前で一人呟いてみる。化粧次第でこんなにも変わるのか、と涼華のセンスの良さと手先の器用さに感心するばかりで、遊弥はいつまで経ってもがさつで乱暴なままの自分に、少しだけ嫌気がさした。
教室に戻ろうと鏡を離れたとき、クラスの女子のグループが大量にトイレに入ってきた。その手には携帯電話と化粧品があり、いつものメイクをしに来たところに鉢合わせてしまったようだった。

「あ、アズヤちゃんじゃ〜ん。何、生意気に化粧なんかしちゃってさーぁ」

やけに間延びした口調で、グループのリーダー的な女子(名前は知らない)が話し掛けてくる。出口を塞ぐように立つ女子の所為で一向に教室に戻れなさそうな雰囲気なので、遊弥は彼女達の言葉には答えず、反抗として舌打ちをするに留めた。

(だから嫌なんだ、こういうのは)

せっかく涼華が自分のために施してくれたメイクだから、やっぱり落とすのはやめたが、こういった人たちに絡まれるのが面倒だった。しかし、彼女達も時間は惜しいのか、しばらくすると鏡の前で化粧を始めた。
解放された遊弥は、安堵して教室に戻る。その途中、やけに熱心に教室を覗き込んでいる男子生徒が居たが、さして気にもせず教室に入った。







次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ