青い春に伸びる影

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誰かが助けてくれるから



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「そんな…中止って…」

残念そうに零す七海。それもそうだろう。三年生にとっては最後の学校祭だ。今年の最大行事といっても良いそれに、青春を捧げる三年生は多いし、楽しみにしているのはここに居るメンバーも同じだ。
重苦しい空気に包まれた病室。ポツリと遊弥が口を開いた。

「アタシのせいだろ……」
「…ゆーちゃん?」

ぎゅっ、と固く握りこぶしを作り、遊弥は心配そうに覗き込んできた涼華に目をやる。

「アタシが暴力沙汰起こしたから……、こんな時期にアタシがアイツを殴ったから……!」

だから中止になるかもしれないんだろ?
声を震わせ、悔しそうな表情を浮かべる遊弥。涼華は「違うよ」と静かに言った。

「ゆーちゃんは私を守ってくれたもん。…嬉しかった」

ありがとう。
そう言って、涼華は涙まで浮かべそうになっていた遊弥に微笑む。

そんな二人を見て、綺音は柔らかい表情をして、姉に友人が出来た事を喜んだ。

コンコン

穏やかになりつつあった病室に、控え目だが硬質なノックの音がして、面々はそちらに振り向いた。

「……あー、やっぱり葉月か!」

そこに入ってきたのは、ニコニコと明るい笑顔を向ける、長身の男だった。制服が涼華達と同じで、ネクタイの色が赤なので、同級生であることを理解した。

「あ、森くん!」

七海がきょとん、と彼を見上げる。どうやら同じクラスらしく、仲良さげに話し始めた。
森と呼ばれた男は、「おぉ」と七海に挨拶してから、ぐるりと病室を見渡す。

「葉月、なした?怪我か?生徒会も首揃えて……」

こてん、と首を傾げながら森は尋ねる。すると、玲奈が怪訝そうに眉を潜めた。

「アンタ、知らないの?学校で暴力事件があって、遊弥ちゃんはその被害者なのよ」
「暴力事件!?」

森は目を丸くする。そして項の辺りを掻きながら苦笑した。

「いや、スマン。昼から病院来てたから、学校でそったらことが有ったなんて知らなくてよ……」
「森くんもどっか悪いの?」

七海が尋ねると、森は少し表情を強張らせてから、「ちょっとな」とはぐらかした。七海は一瞬目を細めるが、すぐにいつもの間抜けな顔に戻って、「そっか」と答えた。

「それにしても大変だったんだな。怪我結構酷いのか、葉月?」

突然話し掛けられた遊弥は咄嗟に答えられず、「えっと、」と一呼吸置いてから、

「傷自体は深くないって」

とだけ答えた。森は安心したように、「そうか」と微笑む。そこで、綺音が口を開く。

「森先輩。実はこの一件が原因で、学祭が中止になっちゃうかもしれないんです」
「えっ、そうなのか?」

苦い顔をしながら目を見張る森。だが、すぐに笑顔に戻った。

「よしっ。俺が何とかするさ!葉月は悪くないんだべ?部活の連中にも声掛けてみるし、学祭出来るように頑張ってみるわ」
「え、森くん?」

軽快な足取りで病室を出ていく森に、涼華は驚く。森はドアに手を掛けたまま肩越しに振り向き、にっと歯を見せて笑った。

「だって、青春といえば学祭だべや?中止なんて俺もやだし」

したらな、と手を振り彼は去っていった。そこで、七海は先程から一言も発していない花をちらりと一瞥する。
すると、花は顔を真っ赤にして今にも倒れてしまいそうなほどぼんやりしていた。

「……花?」

訝しげに名前を呼んでみるが、花から反応はなく、代わりに

「森くん……」

とうっとりとした様子で呟いていた。

「え、何…まさか…」

七海は口元をひくつかせた。





フラグと味方
(何それ聞いてないわよ!)





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ようやく男の子出しました(笑)
何かと今後生徒会と関わってくると思います。




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