青い春に伸びる影

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ライバル登場



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オープニングセレモニーが終わり、クラスごとの展示が始まる。遊弥は早々に衣装を脱ぎ、裏方に回るためエプロンを装着する。焼きそばを作るため、ホットプレートを温めていると、呼び込みの為浴衣に着替えた涼華が駆け寄ってきた。

「ゆーちゃん!」
「…おう」

涼華は空色の浴衣に身を包み、赤い髪飾りを付けていた。瞳と同じ色のそれは、彼女によく似合って居る。

「後で一緒に回ろうね!」
「ああ、わかった」

ニコッと満面の笑みで抱きついてくる涼華。ふわりと甘い匂いがして、女の子らしい彼女が少し羨ましくなった。多分自分は焼きそば臭くなるだろうな、と苦い気持ちになりながら、遊弥は頷いた。



涼華の呼び込みのおかげか、昼時だからなのか、テーマを夏祭りにした教室内は賑わいを見せていた。焼きそばも飛ぶように売れていき、遊弥は忙しそうに手を動かし続けた。
ホットプレートを凝視していると、人の気配を感じたので、遊弥は顔を上げずに「いらっしゃいませ」と機械的に言った。

「焼きそば一つちょうだいよ」
「はいただいま」

手際よくパックに詰めて、輪ゴムを掛ける。焼きそばを手渡すときに初めて、客と目が合った。
さらりとした黒髪に、赤い瞳を持った男が立っている。どこかで見た顔だなぁとぼんやりと思っていると、不意に焼きそばのパックごと手を包み込むように握られた。

「ねぇ君、名前は?」
「え」

心地の良いテノールが鼓膜を揺らす。男の後ろにも客は並んでいるのに、彼はマイペースに遊弥に話し掛けている。

「俺は温樹(はるき)。すきなように呼んでくれて構わないよ。あっ、ねえ」

温樹と名乗った男は、遊弥の後ろに控えていた女子生徒に声を掛ける。

「俺、この子に用があるから、ちょっと代わってよ」

女子生徒は突然美青年に話し掛けられて狼狽えているが、温樹は構わず遊弥を教室の外に連れ出した。そして、廊下を少し歩いたところで話を戻される。

「で、君の名前は?」
「……遊弥です。葉月遊弥」

戸惑いがちに答えた遊弥に、温樹は「遊弥ちゃんかぁ」と一人ごちて、にっこりと微笑んだ。

「じゃあさ、ゆーちゃんって呼んで良い?」
「………えっ、」

驚きに目を見張る遊弥の前に、忙しく駆けてくる涼華が現れた。彼女は温樹を見て眉を寄せた。

「ちょっとお兄ちゃん!私のゆーちゃんに何してんのよ」
「……お兄ちゃん?」

遊弥は更に目を見開く。色々なことが一度に起きて、頭が展開に追い付かない。温樹は芝居掛かった仕草で両手をひらひらと振った。

「いつお前のゆーちゃんになったのさ?彼女は俺と学祭回るんだよ」
「何言ってんのよ!?ゆーちゃんは私と学祭回るの。お兄ちゃんより先に約束してたんだから」
「え、いや、あの、ちょっと……」

遊弥を間に挟み、言い合いを始める金城兄妹。遊弥はたじろぐ。

「兄妹だからって好みも似るなんて……。けど、いくらお兄ちゃんでも、ゆーちゃんは渡さない!」
「それはこっちの台詞だよ。いくら可愛い妹が相手でも、これは譲れないなぁ」

美形に挟まれるという奇怪な状況に、遊弥は頭が痛くなってきた。

「ほら、行こう!」
「こっちに行くんだよ」

その日、野獣が美女と美青年に連れ回されているという奇妙な光景が多々目撃されたという。





敗けられない戦い
(アタシに拒否権はないのか)
((あるわけないでしょ!))




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涼華のお兄ちゃん出しちゃいました(笑)
多分涼華の恋のライバルです。まさかのお兄ちゃんww







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