□葛藤
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(カカシサイド)


ナルトからの『同僚宣言』を受けて直ぐ、火影様の 指示でナルト・サクラとの実力試験のような手合わせがあった。

サクラの綱手様直伝の医療忍術以外の実力にも驚いたが、ナルトも昔の様な無茶な攻撃は無くなり、さすが自来也様の指導を受けただけある――若さ故のせっかちな部分もあるが――昔とは較べ様も無い実力が見えた。

上司である自分が教えていない攻撃のいろはや、忍術の応用を身に付け帰って来たナルトに抱くのは、嬉しさ半分、悔しさ半分――

元上司としてここは、嬉しく……頼もしく思わなければならないのだろうが、自分で教えられなかった未練も感じて、まだまだ自分も青いな――とも思う。

そして、

その心裏は、自来也様への妬みなんだろう――

ナルトの成長に係われなかった嫉妬だ。




(ナルトサイド)


実力試験も無事終わり、カカシ先生の鈴を取る事が出来て、オレもサクラちゃんも満面の笑みで鈴を掲げ自慢していた。


だって、下忍の認定試験の時も同じルールで同じ試験をしたけど、その時は鈴を取れなかったし、チームワークの良さだけで合格したようなものだった。

それだけ、今の自分の実力が証明されたのだとも思った。

エロ仙人の教えを思い出し、発揮し、カカシ先生を追い詰めていく。

――けど、すぐかわされ、純粋に忍術だけの勝負だったら、カカシ先生に敵うはずもなく……

オレの姑息な案で、カカシ先生を騙した感じで決着が着いた。

忍同士なら騙し騙されってのが普通なんだろうけど――

なんか、

オレ的には、これでいいのかよく分からなかった。

視線を上げた先には、カカシ先生の優しい笑みがあって、オレの行動は間違ってなかったと安心した。


また一歩、カカシ先生に近づけたんだと思うと、心の奥底に仕舞っておいた暖かな感情が、再び顔を出しそうで――

ついつい緩んだ顔を、引き締めた。




(カカシサイド)


カカシ班としてナルトとサクラ三人で任務をこなすこととなったが、初っ端からS級任務が回ってきた。

綱手様も、ナルトの再デビュー戦はC級任務でお茶を濁すつもりだった様で、任務受領の時点で飛び込んで来た思い掛けないS級任務に、綱手様以上に緊張感を感じた。


風影様奪還任務。

ナルトと同じ人柱力の少年で、サスケと同じくらいナルトの心を占める一人。

いくら自来也様の秘蔵っ子とは云え、まだ感情に流されやすい未熟で純粋な子供の心を多分に残したナルトの事。

暁のメンバーの前では、ナルトの手綱を引くどころか抑える事で精一杯だった。

万華鏡写輪眼を使ったが、暁の足止め位にしかならず――

それも怒りに我を忘れたナルトの“九尾”の力の発動の前では、自来也様から貰った“もしもの時”の為の『封印札』を使って止めるのがやっとだった。


無力だ。

ナルトの運命の前では、オレはあまりにも無力だ。




(ナルトサイド)


我愛羅を助けに行った砂の里での任務の後で、カカシ先生が入院した。

何年も掛かって強くなって、今回は皆の助けを受けながらも、なんとか我愛羅を救えはしたものの、身近な大切な人に無理をさせてしまった事で、まだまだ自分は未熟なヒヨっ子なんだと再認識してしまった。

もっと強くなんなきゃ――里の皆を、カカシ先生を、護れない――


その後の任務の為に、カカシ先生の代わりに就いてくれたヤマト隊長。

そして、サスケの代わりにカカシ班に配属された、サイとの確執。

人見知りするオレでは無いけど、カカシ先生がいない今の状況に情緒不安定になっていたのかもしれない。


大蛇丸との再戦、焦りから九尾の力を解放しての暴走、挙句にサクラちゃんに怪我を負わせてしまった。

そして、サイの裏切り、サスケとの再会――力及ばない今のオレでは、この任務で何も出来ずに終わった。


簡単にサスケを連れ帰る事など出来るとは思っていなかったけど、出来る事なら病院で待つカカシ先生の元に、サスケと一緒に帰りたかった。


自己満足だと思われるだろうけど、

切れ掛かったサスケとの繋がりを取り戻して――


それが、今でも変わらず好きな先生に、自分を認め受け入れて貰える唯一の手段と信じて……




(カカシサイド)


退院して直ぐナルトに急かされ、新術の修行に取り掛かった。

サスケでさえ数日掛かった――いや、普通この性質変化の修行を始める中・下忍ならサスケの倍は掛かって当たり前な力を、影分身を使ったとはいえナルトは一日で手に入れた。

驚きもあったが、それ以上に“当たり前”かとも思う。

あの師の……四代目火影の血を引く子なのだ。


修行中。

突然里から帰還命令が来た。

何事かと里に戻れば、暁と闘り合ったアスマの死が待っていた。

オレとは違ったタイプの同僚だったが、結構ウマが合い幾度か共に任務をこなした事もあった。

幾ら忍とは云え、同僚が死ぬ事に慣れはしないし、面には出さないまでも悲しみは湧き上がるものだ。

葬儀の最中、近くにいるナルトに目をやれば、木の葉丸君を労る様に寄り添う後ろ姿が見えた。


忍である以上、死は必ず付いて回る。

オレも例外では無いし、オレ以上にナルトは暁に狙われている現在、もっとも死に近い場所にいるだろう。

だが、オレがソレを…“ナルトの死”を赦さない。

アスマの様に、オレが同僚を――ナルトを護るから。

オレより先に逝くことなど、赦さない。

同僚だから、仲間だから――なんて、生ぬるい感情からではない。

多分、ナルトが先に逝く事になれば、自分の存在自体無に返るだろう。

ナルトは――

今では《愛している》唯一人の存在……だから。




(ナルトサイド)


葬儀の後、アスマ先生の墓石から少し離れた場所でカカシ先生を呼び止めた。

「何?…修行の話?」

もう少しで形になろうとしている新術の事と思っているカカシ先生に、少し口を尖らせ不満を示した。

「カカシ先生は……死んだらダメだってば…」

「え…」

右目だけを見開いてオレを見ている先生。 けど、図星を指した事は分かる。

「アスマ先生と一緒だ……カカシ先生もオレを…いや、仲間の為にあっさり命を捨てそうだってばよ」

「確かに、その覚悟はあるよ…」

あっさり肯定して、先生がいつもの様に目を細めて笑う。

「オレ達…忍は、誰だってそう思っているんじゃないか?」

ナルトだってそうだろ?――と聞かれて、口籠った。

確かにそういう場面になれば、自分の身は後回しにするだろうとは思う。

けど、今はそういう事を云いたいんじゃないんだ。

「もし、カカシ先生が……オレの傍からいなくなったら……」

オレ自身、どうなるか分からない。

大切な人を失った時、自分の感情を…力を、抑える自信は無い。

湧き上がる想いはどれも言葉にならなかった。

黙り込んだオレの頭を、カカシ先生がそっと撫でてくれた。

「正直に云っちゃえば、ナルトより先に死にたいとは思うよ」

オレより先に?

オレを置いて――先に?死ぬの?

「ナルトがオレより先に死んだら、多分……サスケの二の舞だろうからさ」

「サスケの?」

「抜忍になってでも、ナルトを殺ったヤツに復讐するよ……」

それって、どういう意味?

不安げなオレの表情から、カカシ先生も少し云い難そうに…それでも、真っ直ぐオレを見て言葉を続けた。

「愛する人を殺された時には、オレ自身何をしでかすか分からないからね」

穏やかな笑み、いつもの口調で、カカシ先生が最後に云った言葉が頭をグルグルと駆け巡る。

どういう意味?

カカシ先生の想いも、オレと同じだと、勘違いしてもいいの?


それを確認する間も無く、先生は姿を消した。

アスマ先生の敵討ちに出たシカマル達に、カカシ先生は班長代理として同行したからだ。








(スミマセン、ツヅキマス…)

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