倉庫
□銀龍の舞
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「……弥生」
土浦組の一室、CD等で囲まれたその部屋に弥生はいた。部屋に入った文人はソファに座るその背中に声をかけた。が、相手からの返答はない。文人は、またか、と溜め息を吐いた。
「………」
「……っ、何だよ。フミ」
「お前、大音量で聞いてると耳が遠くなるぞ。」
弥生に近寄る文人がヘッドホンを取り上げると不機嫌な顔が此方を振り向いた。文人はヘッドホンから漏れるロックを耳にしながら弥生を軽く睨む。
すると弥生は舌打ちした後、文人の手からヘッドホンを奪い音楽を止めCDプレイヤーにヘッドホンを投げた。
文人は弥生の隣に腰掛ける。弥生はヘッドホンがプレイヤーにきちんと乗った事にニッと笑うとぐっと背伸びをしてのけぞった。
「…んー……」
「……銀龍」
「………あんだよ。フミ、仕事か?」
くて、と脱力してソファに背を預け腕を後ろにだらしなく垂らす弥生を横目で呆れたように見る文人。だが呆れは面に出さず弥生の問いに頷く。弥生は、そのままの体勢で黙りこんだ。これは「話せ」の合図。文人はまた溜め息をつき口を開いた。
「猫が、刺された」
「っ!?」
バッと起き上がる弥生に文人は苦笑する。弥生はそんなのも気にせず文人の胸ぐらを掴んだ。その顔は目を吊り上げて怒った表情だ。弥生は本当に三月が大切なのだ、三月の為なら死ぬことすら躊躇しないのだろう、と文人は内心思った。
「おい、どうゆうことだ」
「………嘘」
「………………は?」
ぽかんとする表情にクスと笑った。文人は緩まった弥生の手を掴み下ろさせて嘘だよ、ともう一度言った。途端、弥生は再び胸ぐらを掴み文人の脳天に拳を振り落とした。
「っ……てぇ…」
「嘘でもんなこと言うな馬鹿野郎!」
「ククッ……わりぃ…」
笑いながらも謝罪を口にする文人に弥生は小さく舌打ちしながら手を離した。再びソファに沈んだ。
妬けるな、と文人は苦笑しながら溜め息を吐く。それは、誰に対してなのか秘密だが。
「……まぁそう、すねるなよ」
「誰が」
本当にイラついたようなその低い声色に文人は苦笑いを消せないでいた。…まるで子供のようだ、と弥生を少しでも愛しく思う自分にも。
そう思いながら文人が弥生に向ける視線には熱が篭っていて。弥生はそれに気付くと、むくりと起き上がり文人に覆い被さった。
「……っ…?」
「な、今日、相手してくれよ。良いだろ?ふーみと…」
"ふーみと"と誘うように呼ぶ弥生は、いつも甘い。
その声色、表情、瞳。全てが魅力的で、挑発的で。文人の頬をするりと撫でる弥生の手つきに、文人は背筋にゾクリとした感覚を覚えた。