俺についてこい!
□最狂総長!
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ピピッピピッピ…
朝だと告げる騒音を止めて、気怠い体を起こす。
昨日も帰りは遅かったのでとても頭が重い、完全に寝不足だ。
欠伸を噛み殺しながらベッドを降りると、既に家に充満するいい匂いに釣られて真っ直ぐリビングへと向かう。
「おはよう、隼人」
「はよー…ふわ、」
朝食を並べながらいつも通り出迎えてくれるのは親父の仏頂面。
前髪さえも胸元まである長い黒髪を緩く結って、いつものスーツ。
朝から硬っ苦しいよなぁと思っていると、顔洗えと言われたので大人しくそれに従った。
「あー…ねみぃ」
「遅くまで遊んでるからだ。喧嘩も程々にしろ」
「はいはい」
親父と卓越しに向かい合い朝食をつつきながら言葉を交わす。
表情筋は全く仕事してないが、親父は普通に冗談も言うし、親子関係は悪くない。ただ、謎が多すぎる所を抜いて。
今日もほら、きっと何かある。
リビングの端に置かれたキャリーバッグを横目に捉えて、俺はちらりと親父の顔を伺った。そうすれば瞬きを一つして視線がかち合う。
「そうだ、お前明隆学園に転校な」
「ほらまた唐突なことを…うん?」
「今週末には入寮しろよ」
淡々と、何でもないように告げられたそれに、俺は硬直する。
今、何と。明隆学園?転校?入寮?
明隆学園といえば幼等部から高等部まである有名なエスカレーター式の男子校。そして金持ちが集う学校。
あそこは初等部からほぼ寮制で、転校するとするなら俺は高等部で全寮制で…。
「え、聞いてねぇ」
「今言った」
「違うそういう事じゃない。まず何で!?二年に上がってまだ一ヶ月も経ってねぇぞ!」
あからさまに動揺する俺など気にも止めず、親父は平然と暫く家に帰れないから、と一言。
「俺、一人でも平気だぞ?」
「ダメだ、家事なんて出来ねぇくせに何言ってる。飯は外食とかふざけたこと抜かすなよ」
「ぅぐ、」
確かに生活力ないので、言い返せない。しかし、しかしよ。
「急すぎだろ…てか明隆とか大丈夫なのかよ」
「問題ない。光宏が理事長だからな、軽く了承して貰えたぞ」
「え、みっちゃん明隆の理事長なの!?」
ワォ、初耳。
光宏とは、俺の叔父である。なかなか会えない故、仕事については全く知らなかった、というか気にしたことなかった。
マジかよと唖然としていると、朝食を終えて目の前の仏頂面が僅かに表情を変えてこちらを見る。
「お前、変装しろよ。安心しろ、セットは用意してある」
「は?」
僅かに笑みを作りながらそう言って立ち上がり、どこからか持ってきた段ボール。
そこには黒髪のウィッグと眼鏡と黒のカラコンが入っていた。
HE・N・SO・U?何で?
「何でってお前、目立つだろ」
「あら、口に出てた?…まぁ確かに」
俺は普通の人とは違って目立つ容姿をしている。
天然の金髪に赤メッシュ、そして蒼と黄のオッドアイ。
普通じゃ、ねぇもんな。
「こんな如何にもな奴が金持ち校に行ったらまずいよな」
「平穏に暮らす為の変装だ。…間違っても向こうでまで喧嘩すんなよ」
「チョットそれは約束出来ないデース」
ふいと顔を反らせば親父は溜息を零したのみで、また仏頂面のまま段ボールの蓋を閉じる。
とりあえず荷造りしとけよ、と言われて適当に返事をしながら俺は少し冷めてしまった朝食をとった。
仲間に何と言おうかと思考を巡らせながら。