捧&宝物

□素直になれなくて
1ページ/2ページ



──…チャリ、と。ふと胸元で小さく音が鳴った。
…俺の、一番大切なもの。
目の前のゴミのせいで汚れてしまったそれを、服の綺麗な所で拭う。

人間のなんて、脆くて、儚くて、すぐに俺の前から消えてしまう。…思い出だけを残して。
だから、こんなのも今だけの幸せなんだろうか…なんて。

そこまで考えて、胸元のそれを右手で握り締めた。冷たい筈なのに、じんわりと熱を持った気がして胸が小さく痛む。

──…会いたい。






「…あ?栗栖?」

携帯ゲーム片手にベッドに寝転んで、そう驚いたように声上げた男の手元に腰を下ろす。
開いていた窓から、尻尾が二本の狐なんて入ってきたら、普通に誰でも驚くけど。男の驚きは、何故ここに俺がいるのか、という方で。

「…近く、寄ったから」

「…ふぅん」

…嘘。会いたかった、なんて言えなくて。

男…俺の恋人である綺羅は、それ以上何も言わずに途中なゲームへと視線を戻す。それはいつもの事で。
ただゲームに夢中なだけなんだろうけど、居てもいいと言ってくれているみたいで嬉しくなる。

ゲームなんて全然分からないけど、綺羅の大好きなそれを邪魔したくない反面、構って欲しいと思ってしまう。

「…っ…何だよ」

「…別に」

俯せに肘を付いて上半身を軽く起こすようにしてゲームをする綺羅の懐に、無理矢理体を押し込んだ。
画面が見えなかったのか一瞬眉を寄せるのが見えて、俺は綺羅の両腕の間、胸元の下で身を伏せる。

そうすれば、邪魔にされることもなく、大人しくそこにいさせてくれて、綺羅の温もりに包まれる。
この温もりや上から聞こえる綺羅の吐息、服越しに響いてくる微かな心音。

それを感じるだけで幸せで、今まで感じてきた愛情とは違う、特別な愛情、というのだろうか。…愛しさが、どんどんと胸に積もっていく。

「…っ、」

「……久しぶりだな」

いつの間にかゲームを放った綺羅の手が、俺の背に触れた。その毛並みを堪能するように優しく撫でる手つきに、態度とは逆に素直に感情を表す二本の金色。

…綺羅と久しぶりに会う時は、いつも始めは狐のまま。そうじゃなきゃ──…、

「これ、填めねぇの?」

そう、不意に触れられたのは胸元下げられた…綺羅に貰った、指輪。

「…俺の勝手」

「…そうかよ」

素っ気なく返してしまうと、ちょっと不機嫌になったみたいにトーンが低くなる。

本当は戦いで壊したり、傷付けたくないから…大切にしたい。でも、そんなの素直に答えられない。



次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ