捧&宝物
□素直になれなくて
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こんなのが、会う度に、喋る度に繰り返されて、後悔する。
「…ッひゃ!」
また無言になったと思うと、突然尻尾を掴まれる。同時にゾクゾクとした感覚が体を伝わって、毛が総立った。
「ぁ、ッ…尻尾、触るな…!」
「やだ」
「ふぁ…ッ!っ…はな、せっ」
勝手に溢れる声と跳ねる体が嫌で、思わず綺羅の手に噛みついた。
いてっ、と声をあげて手を引いた綺羅。
俺は動揺して、綺羅の腕の中のまま、人間の姿にしてしまった。
結果、押し倒されたような体勢で。
以前のことを思い出して顔が熱くなった。
「っ…何だ、誘ってんのか?」
「違っ…退け!」
「退かねぇ」
「っもう帰…ッン、」
小さく笑う声が聞こえて肩越しに見上げると、綺羅はニヤニヤと口角を上げていた。
もう嫌な予感しかしなくて必死に抵抗するけど、毎度の如く力じゃ敵わなくて簡単に押さえ込まれ、口を塞がれる。
びっくりして一瞬固まってから、口内を滑る己のものではない舌に翻弄される。
「んッ…ふ…ァ、や…っ」
慣れない感覚に、カァ、と体中の熱が上がる。近すぎる綺羅の瞳が細められているのを見て、俺は強く目を伏せる。
暫しして唇が離れると、未だに上手く息が出来ない俺の視界は涙で歪んでいた。
クラクラと痛いような麻痺したような頭を必死に理性で抑えながら、綺羅を睨み付ける。
でも、そんなの効かなくて。
「…可愛いな」
「…切り裂くぞ」
笑みを深めた綺羅はするりと髪を撫でてきた。
そして、──…と。
既に熱い体温が、更に上昇した気がして、頭痛が増した。
「…ふん、」
俺はただ顔を背けるだけで精一杯だ。
今にも幸せで緩みそうな頬や真っ赤になっているだろう顔を見られたくない。
今は、狐じゃなくて良かった。
紗季のように、素直に好きだと言えたら、なんて何度も思った。求められるままに…と。
でも、どうしても素直になれなくて。…こんな自分にどうしようもなくなる。
毒を吐く方は素直に出るのに。
二人で無言で何もせずにただ一緒にいるだけでも、幸せだけど。俺は、何も綺羅を幸せになんかしてない。
嫌われたらとか、最悪な方向に考えが行く前に。
素直に、素直に、俺の気持ちを。
“大好きだ”って、ただ、一言。
「…綺羅、──…」
いつも素直になれなくて、ごめん。
指輪も、綺羅へのこの想いも、ずっとずっと大切にする。
でも、やっぱり素直になれないから、今はこの一言だけで。