捧&宝物
□林檎飴、キスの甘さ
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「ほら巧真、動かないのっ」
早く早くと急かしていると、兄貴が俺の腰に腕を回しながら苦笑混じりに声をあげる。
その表情に謝りながら大人しくするものの、足は今にも走り出しそうで。
「…っと。はい、出来た」
薄暗くなってきている窓の外へと目を向けていると、ポン、と腰を柔く叩かれた。少し、お腹が苦しい。
毎年着ているそれは、今日ばかりは何故か凄く新鮮な気がして、自然と頬が緩む。
…けれどそんなことよりも。
「お兄ちゃんっ、早く行こう!」
期待に速くなる胸を軽く抑えてから兄貴の手を引いて、家を出た。
──…早く、会いたい。
人の流れがいつもより多い通りは、既に日は落ちていて暗くなっていた。
少し歩き辛くて時々躓きながらも足早に目的の場所へと向かうと、俺より少し背の低い少年が浴衣姿で此方へと笑みを向けてきた。
俺は嬉しさに兄貴の手を離して少年へと飛び込む。
「翔太くんっ」
「巧真!と、巧己お兄ちゃん、こんばんはーっ」
後ろに一歩よろめきながら俺を抱き留めた翔太は、明るい笑みで俺を見た後に兄貴へと挨拶をした。
兄貴も可笑しそうに笑いながら優しく挨拶を返す。
俺は挨拶なんかよりも嬉しさでいっぱいで。
翔太を離すと深緑色の袖を広げながら、くるりとその場で回って見せる。
「翔太くん、浴衣!似合う?」
「うんっ。似合ってるよー、すっごい可愛い!」
「えへへ、ほんと?でも、翔太くんの浴衣姿の方が可愛いよー」
紺に白い模様が入った浴衣を纏う翔太がすごく新鮮で、少しだけドキリとした。なんて、絶対言わないけど。
翔太は可愛いと言われたのが嫌だったのか少し膨れてから俺の頬に口付け、頬が赤くなった俺を見て、巧真のが可愛い、と笑う。
不意打ちは、ズルい。
「二人とも、そろそろ行こう」
今度は俺が膨れていると兄貴が頭を撫でてきて、柔く微笑みながら告げる。
俺と翔太は顔を見合わせた後、満面の笑みで頷いた。
「「…うん!」」