捧&宝物

□I With...
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―あんな、あんな、挑発、乗らなきゃよかった。

本来、男性である己が身に纏う必要のない派手な柄の衣装に視線を落とし、無駄に晴れ晴れとした澄んだ空を、軽く仰いだ。

周りから痛い程刺さる視線は、果たしてやたらニヤつきながら隣を歩いている男のせいなのか、あんな挑発に乗った己のせいなのか。

隣を歩く男は、日本人ではあるが持ち前の明るさを示すような、派手な橙色の髪をもっている。
しかし身に纏う衣装は、日本の心「和」を表すような、渋いながらも落ち着いている風情漂うもので。
日本の男が、結婚式で和式を選んだ際に着る、あれだ。

本来なら…本来、なら。
俺が身に纏う衣装をこの男に着せ、この男が身に纏っている衣装を俺が、着るはずだった…のに。
なんで、あんな挑発を受けてしまったのだろうか。

今まさに己が羞恥に襲われている要因を作った男を睨み、嘆息をした。

そもそも、あんな…先にイった方が女装するだなんて勝負というか挑発なんざ受けずに、無理矢理でも着せりゃよかった!

提案したのは俺だ、コイツの女装姿見たさに女装しろと告げた。
けれど奴も自分も男、プライドとして女装なんざしたくない、寧ろ互いにさせたいわけで。
なら、とアイツが提案というか挑発したのを、勢いとプライドと負けず嫌いから真に受けなきゃよかったのに、だ。

…後悔しても後の祭り。
負けた俺が、女装をしなければならなくなった。

後悔と己のバカさに浸る俺に、ん?とわざとらしく首を傾げながら、声をかけられる。

「どうしたの?飛鳥。」

あぁもう、ムカつく。
その笑みすらカッコいいとどこか思ってしまう自分もムカつく!
あぁもう、全部オマエのせいだバカ!

「別になんでもねェよ…」

なんだかニヤついてるのに対し、ムカついてるはずなのに…擽ったいようにも感じる自分の恥ずかしさに、照れ隠しからか素っ気なく鼻を鳴らしてしまう。

気づいてねぇのかよ、神社の境内中の女共がオマエを見てはカッコいいと、黄色い歓声をあげてることに。

…オマエは俺のだって、見せつけてやりたい。
…見た目からしても男そのものな俺が、こんな公然でそんなこと出来る筈もねェけど。
いくら派手な女物の着物を着たって、体のゴツさや女ではそうそう見かけない背丈は隠せないしな。

「…オマエ、女から歓声浴びまくってんな」

なんだか変に嫉妬というか独占欲を感じてしまい、コイツが悪いだなんて一ミリも思っていないにも関わらず、皮肉染みたことを言ってしまう。

あぁ、なんで俺こんな天の邪鬼なんだ。

目を瞬かせ驚いている様子を見てから、自分の不甲斐なさをアリアリと感じてしまい、堪らず顔を逸らしてしまう。

…だから、アイツがどんな顔をしてこんなこと言ったなんて、意味合いなんて、気づきもしなかった。

「そういう飛鳥は男からヤラシイ視線、浴びまくってるよ?」

「っな、ンだよ俺が歩く猥褻物みてェな言い方…!猥褻なのはオマエだろ!」

頬を撫でる風はこんなにも冷たく凛としているのに、反して揶揄されたからかみるみる内に頬が熱を帯びた。

しかし、先程の声色とは少し違ったいつもの様子で笑われてしまい、誤魔化されてしまう。

「猥褻ってか飛鳥の場合はいんら…いたっ!」

「っ、こんなとこでンな台詞吐くんじゃねェ!オラ、さっさと参拝すんぞ!」

軽く殴りつければわざとらしく、痛いと嘆かれるも「ここじゃなかったらいいんだ?」とすぐに言い返してきたバカを今一度殴りつけてから、賽銭箱の近くに足早に近づいた。
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