俺についてこい!

□最狂総長!
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その夜、廃れた廃墟で数十人もの若者たちが拳をぶつけ合っていた。その中心に立っていた俺は、足元に膝を着く俺よりも背の高い男の胸ぐらを掴む。
男の腫れた目元から覗く怯えた瞳と視線が合って、自然と口角が上がる。

「なぁ、もうこんくらいにしとこうぜ?俺のこと、知らねぇわけねぇもんな?」

「疾風の…姫、」

搾り出すように告げられた己の通り名に思わず舌を打つ。

「誰が姫だこら…潰す」

苛立ちを膝に乗せて男の腹の溝へめり込ませると、苦しそうな声を上げながら蹲った。
しかしそれでも尚、悔しそうな敵意を向けられてゾクリと背筋に何かが走る。
いいな、それ。興奮する。

「俺、そういうの嫌いじゃねぇよ」

押し飛ばすようにそいつを離して、まだ殴り合う奴らを振り返る。

「お楽しみはまだこれからだぞ!

    ── It's Show Time!」

「「「イェーーーイッ!」」」

掛け声に仲間たちが応え、これから始まるショーに胸を踊らせ笑みを深めた。





数十分後、特に大きな手負いもなく喧嘩を終えた俺たちは、いつも溜まり場にさせてもらっているバーで、先程の事など忘れたかのように年相応の顔つきで笑い合っていた。

「疾風(ハヤテ)さん、あいつらどうします?」

名を呼ばれて、俺は喉を潤しながらカウンターからゆっくりと振り返る。

「あいつら見たことねぇし、放っといていいだろ。それに、あの大将は最後まで俺を睨んでたし、面白そう」

「ししっ、でた、疾風さんのドS。こえー」

「こんな美人なのに性格で台無しだよな、疾風は」

男に美人とか言うなと反論する前に、それにチビだし、と付け足された言葉に軽く睨む。
しかし言った本人は楽しそうに、しししと笑って他の仲間のもとへ。
むすりとした俺を宥めるように生チョコを差し出されて、機嫌はすぐに戻るのだが。

そして楽しいひと時もそこそこに、告げなければならない事を生チョコを摘みながら口にする。

「そういや俺、全寮の学校行くからほとんど来れなくなるかも」

刹那、静まり返る店内。

はー糖分最高。

「マスター、これお持ち帰りしてもいい?」

「今重要なのはチョコじゃないっすよ疾風さん!全寮ってどういうこと!来れないって…!」

「家の事情ってやつだよ、仕方ねぇ」

一斉に皆が騒ぎ始めて、マスターから煩いと一喝。しかし静まるわけがない。
チームの頂点、総長が不在になるのだ。と言っても、俺も今まで気まぐれに顔出す感じだったし、頼りなる奴らがいるから問題はないと思うのだが。

口内に広がる甘さを味わってから、動揺する面々を見回す。

「全寮つっても、休日くらい外出できるだろうし、あんま心配すんな」

俺がいないからってヒヨるお前らじゃないだろう?
そう微笑めば、表情を引き締め頷く仲間たち。

その反応に俺は満足げに笑みを深めるが、一人がガバリと俺に抱きついてきた。

「でも寂しいからなるべく来てよね疾風さん!」

「ふは、分かってる」

可愛い子犬を撫でながら、俺たちはいつものように深夜まで騒ぐのであった。




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