ショートショート

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恋と愛の違いは一方的か否かであるらしい。
ならば僕のこれはなんなのだろうか、と恋愛の師匠(長い黒髪がとても綺麗なセーラー服が素晴らしく似合う先輩だ)の言葉で考えた。



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あの衝撃的な告白(?)から一週間。
僕は気まずさに耐え切れず登校時間を早めて仗助さんに会わないようにしていた。元々中等部と高等部なので接点と言えば登校時しかなかったので、その時間さえずらせば仗助さんとの接点は何も無くなってしまう。簡単なことなのだけれど、好きな人と完全に接点を断ってしまうのはとても辛いことだった。
毎日学校へ行くのが楽しみだったのに、今はただの苦痛でしかない。
はふん、と溜息を吐くとクラスメートに幸せが逃げるぞ、と言われてしまった。
うるさい、どうせそんなものはこないだの告白で逃げてしまったっつーの!
むすっと膨れて机に突っ伏していると教室の入口がなんだか賑やか。なんだなんだ、と野次馬根性で顔を上げると驚いたような友人が僕を手招きしていた。

「おいっ!早く来いって!」

なんだよ全く、僕は今傷心中なんだからな!なんて思いながら嫌々入口へと向かった僕は思わず絶句した。

「遅いわ」

なんとそこには長い黒髪が素敵な人が立っていた。多分、制服を見る限りは高等部の人。
なんで、なんて疑問を口にする前にその綺麗な女の人は僕の腕を掴んでぐんぐん歩いていく。
そうして引きずられるような形で僕はその人に屋上まで連行されるのだった。



***



その人は山岸由花子さんと言って、康一さんの彼女だということを屋上に行く間に教えてもらった。
少しだけ、びっくりした。
勿論、康一さんの彼女が意外っていうこともあるのだけれどそれ以上になんで僕に用が在るのか、ということにびっくりしてしまったのだ。

「私、回りくどいことが嫌いなの。だから単刀直入に言わせてもらうわ。あなた、東方仗助に好きだと言ったそうね?」

屋上に出るや否や、はきはきとした口調で確認するように由花子さんはストレートに僕に言葉を投げ掛ける。
余りにもはっきりとあっさりとすっきりと気持ち良く言うので、僕も自然と素直に返事を返してしまっていた。

「そう…私としては別に貴方に興味は無いし東方仗助にも興味は無いけれど、他でも無い康一くんのお願いだから仕方がないわね」
「康一さん?」

話が見えず、首を傾げると睨まれてしまった。(超怖かった!)

「気安く康一くんの名前を呼ばないで頂戴、と言いたいところではあるけれどあなたが東方仗助を好きだということに免じてそれぐらいは許してあげる。…良かったわね、康一くんを好きにならなくて」

背筋が凍った瞬間だった。
美人だからこそ、物凄い威圧感。
取り敢えず苦く笑い返すしか出来なかった。

「えーと、すいません…。全く話がわからないのですが…」
「それを今から言うのよ。良いから黙って最後まで聞きなさい」
「すいません」

思わず小さくなってしまう僕だった。

「さっきも言ったけど、貴方にも東方仗助にも興味はないんだけど…康一くんがね、とても気にしていたのよ。康一くんはとても優しいから」

康一さんのことを話す時だけ、由花子さんの表情が和らぐ。素直にこの人は康一さんのことを好きなんだろうな、と思った。

「康一くんが…あれから貴方が姿を見せないし、東方仗助もなんだか登校時にそわそわするしで心配らしいのよ。全く、康一くんに心配させるだなんてムカつくわ」

康一さんの優しさと由花子さんの嫉妬に板挟みにされる僕。
どう対応するのが正解なんだろうか。
選択肢をミスったら由花子さんに刺される気がする…。

「だから、どうにか出来ないかと康一くんに言われたから、私がこうして直々に貴方に会いに来たという訳よ。他でも無い康一くんの頼みですもの…応えない訳にはいかないわ」

ようやく、僕は由花子さんの目的を理解した。
…ここまで辿り着くまで長かった。お疲れ様、僕。
つまり、康一さんの優しさで由花子さんは僕が落ち込み過ぎていないかを見に来てくれた、ということ…なのかな、多分。
ちらりと由花子さんを見るとばっちり目が合ってしまった。

「で、貴方はどうしたいの?」
「え?」
「え?じゃあないわよ。どうしたいのかを聞いてるの。貴方は、東方仗助に思いを伝えてどうするの?伝えるだけで良いのかそれとも私と康一くんみたいに恋人同士になりたいのか、そういうの、あるでしょう?」

少し苛立ったように質問をする由花子さんの言葉を飲み込んで、反芻する。内容を理解するのに僕はかなり時間がかかってしまったような気がした。
だって、僕が、仗助さんと、恋人に?
理解すると同時になんだか想像をしてしまって顔が熱くなる。考えてもいなかった内容だけに僕の動揺は酷いもので、え、とかあう、だとかしか言葉を出せず、口をただぱくぱくとすることしか出来なかった。
僕ってばすごく、格好悪い。

「…まさか、考えて無かったの?」
「はい…。と、いうかあの告白も不可抗力というか、するつもりはなかったので…」

しどろもどろに答える僕に呆れたように溜息を吐く由花子さん。
ますます居心地が悪くなる。もう頭の中はいっぱいいっぱいでキャパシティなんてとうに越えていた。(由花子さんに呼び出された時点で限界点に達していた気がする)

「まどろっこしいわね…。どうしたいのか、はっきりしなさい」

怒られてしまった。
どうしたいのか、なんて想像もしたことがないというのに。

「…わかないわ。貴方、東方仗助が好きなんでしょう?告白するつもりがなかったと言ったわね。どうして見てるだけで満足出来るの?私は康一くんを好きになって、見てるだけだなんて無理だった。私の気持ちを知ってもらいたかった。だから告白をした。だって…好きなんですもの。一方的なのは愛なんかじゃないわ。私は恋に恋したりなんてしない。康一くんに恋をして、愛してるのよ。だからこそ私に振り向いて欲しかった」

そこまでまくし立てて由花子さんはふう、と小さく息を吐いた。
僕は、由花子さんが眩しかった。
ここまで真剣に好きになってもらえた康一さんが少しだけ羨ましい。
一方的なのは愛ではない、か。
そもそも僕のこの気持ちが愛なんて大層なものなのかどうかはわからないけれどそれでも僕は由花子さんの言葉をするりと飲み込むことが出来た。
なんだか上手く乗せられてしまった気がするのだけど、きっとこれが僕の本心なのだろう。
僕は、

「見てるだけ、なんて嫌です」
だって、もう仗助さんと話すという見ている以上に幸せな行為を知ってしまったのだから。

僕の言葉に由花子さんが、小さく笑った気がした。



***

僕は今、校門の前に立っている。
たまにすれ違うクラスメートに何やってんの、という視線をもらうけれど無視。僕はそれどころじゃあないのだ。
緊張し過ぎて心臓が破裂しそう…。
いつ仗助さんが出て来るのかと思うと落ち着く瞬間なんて無い。
深呼吸しても上手く息は吸えないし、心臓はゆっくりしてくれそうになかった。

僕は今、校門で仗助さんを待っていた。

師匠(由花子さんのことだ。僕は由花子さんを敬意を込めて恋愛の師匠と呼ぶことにした。断じて嫌がらせではない)に背中を押されて僕は仗助さんにこ、告白というものを行おうとしていた。
ドキドキはもう常に最初からクライマックス。取り敢えず、早く来て欲しい。いや、出来れば来ないで欲しいかも?なんて頭の中はぐるぐるして纏まらない。
落ち着けー落ち着けー!と自分に言い聞かせていると不意に、声をかけられた。

「おい、」
「うっひゃい!?」

うひゃあ、という驚きとはい、という返事が混じったなんとも情けない答えだった。
うっひゃいて…。
うう、情けない…と少し落ち込みながら振り向いた先には驚いたように瞬く仗助さん。
ああ、相変わらずかっこいいな。でも今の顔はなんだか可愛い。
なんて考えてしまう僕はもう末期だ。
恋の病の、末期。
自分でいうのもなんだけど普通に痛々しいな、僕。寒すぎる。
はふん、と溜息を吐くと仗助さんがますます不思議そうな顔をしていた。
取り敢えずは、会話をしなければ!

「お、おはようございます!」
「ん?あ、あぁ…。もう夕方だけどな」

ですよねぇ!
第一歩を間違えてしまった。
いや、けど問題はそこじゃない!
なんだか微妙な空気が、流れる。

「こ、こないだの事なんですけど…」

僕のその台詞をきっかけに、仗助さんが緊張したように固まる。
ドキドキしている音が仗助さんにまで聞こえているんじゃないかと思うくらい、僕も緊張していた。

「僕が好きって言ったのは、先輩としてだとか憧れてだとかそういうものじゃあなくて、」
そういうことじゃなくて、もっと、違うこと。
「僕が言ったのは、その、由花子さんと康一さんみたいにこ、恋人同士になりたいかもしれないという類の好きだったんです!」
イマイチ押し切れない僕だった。
なりたいかもしれないって…。
馬鹿馬鹿、僕の馬鹿!と落ち込んでいると固まっていた仗助さんが「あのよォ」と話し始めたので慌て仗助さんを見ると、仗助さんの顔が少しだけ赤くなっていた。
そうして僕も真っ赤になる。

「なんつーか、俺はお前のこと良く知らねーしお前だって俺を良くは知らねーだろ?」
でっすよねー。
やっぱり駄目か、と僕が諦めた時だった。
「だから、取り敢えず…友達から始めてみるっつーのでも良いんじゃねェか?」
な?と可愛い笑顔で言われて、僕は相変わらず真っ赤なままぶんぶんと首を縦に振った。

そうして、僕らの関係は友人としてスタートしたのだった。




(誰が予想なんて出来ただろう!)
(僕とヒーローは此処から始まる)




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まさかのシリーズ化^^

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