ショートショート

□初恋ブルー!
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髪が風に靡いて、サラサラと流れる。
美しい人は髪の先まで美しいのだと何と無く、けれどはっきりとその時の私は感じた。
そうしてきっと彼は美しい物だけで構成されているのだろう、とも。
…まあ口を開いた彼によってその幻想は2秒と待たずに打ち砕かれたのだったけれど。(なんというイマジンブレイカー)



初恋ブルー!



「…何をしている?」

嗚呼、嫌な奴に見付かってしまった。
長年の付き合いで奴が今どんな顔をしているかなんて容易に想像がつく。
振り返って見るまでもない。

「いや、いやいやいや、可愛い後輩とちょっとした交流をだな」
「そんな穴蔵で、か?」

振り向き見上げて、笑う。
さらりとした黒髪を肩から垂らして私の天敵、忍術学園が誇るサラストことドS(間違えた立花仙蔵が名前だった。すまんすまん。)が予想通りニヤニヤと厭味な笑みを浮かべながら蛸壷の入口からこちらを覗き込んでいた。

「しかし可愛い後輩とやらは見当たらないようだが?なんだ、終に幻覚まで見えるようになったのか可哀相に。そこまで行き着くといっそ哀れだな、ショタコンというのは」
「阿呆か!だから私はショタコンじゃないと何度言ったら…!嗚呼、いや今はそんな場合じゃなかった」

いつもなら喰って掛かる私だが今はそれ所ではない。
言葉を止めた私に不可解だと言うように仙蔵が形の良い眉を潜めた。
そうして面白くないという顔をする。
(私はお前の玩具ではないと声を大にして言いたい!)

「実は伊賀崎のペットがまた逃げ出してな…」
「…またか」
「ああ、まただ」

解るぞ、その頭を抱えたくなる気持ちは。
私だってその報告を竹谷から受けた時はお前と同じリアクションをしたからな。

「ついさっきまで一年の佐武とマリーを探していたんだが」
「マリー?」
「ああ、毒蜘蛛のマリーだ」
「…毒蜘蛛」
「厄介だろう」
「全くだ」
「…話を戻すが探している最中に佐武がこの蛸壷へと落ちてしまってな。助けようと手を伸ばした瞬間"いけいけどんどん"という掛け声と共にバレーボールが飛んできたんだ。まあ声の主が誰とはあえて言及はせんがその誰かのボールが私に直撃し、佐武と一緒に落ち、今に至るわけだ。決して妄想が見えているわけではない。」
「まだ気にしていたのか」
「当たり前だ。私をショタコン扱いするな」
因みに佐武を先に出して自分も出ようと思っていたのだが、先に出た佐武が「先生を呼んできます!だから先輩は動かず待ってて下さい!」なんて一生懸命走っていってしまうものだから出るに出れなくなってしまった、という経緯がある。(私を助けようと必死な佐武は大層可愛らしかった)

「成程、可愛い一年の為にその穴蔵の中で待っていると」
「そういう事!この後私には帰ってきた佐武を褒めて可愛がるという大事な大事な仕事があるのでな」
だからさっさと帰ってくれないか?

そう本心からの言葉を告げると、仙蔵は何とも言い難い顔をした。
苦々しいというよりも、それは。
「…面白くない」

辛い痛みを堪えて飲み下したかのような泣きそうな、そんな顔。




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