ショートショート

□初恋ブルー!
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「仙蔵?って、う、わっ」

どうかしたのか、と問う間も無く私は仙蔵によって蛸壷から引っ張り上げられていた。
華奢な体躯の何処にそんな力が在るのか、なんてぼんやりと考えていると地面へと放り出された。

「何をするんだ、痛いじゃないか!」

顔を上げると不愉快そうな奴と目が合う。
一体何だと言うのか。
不愉快なのはこっちだ、と視線をやると綺麗な顔(調子に乗るので本人には言っていない)が近付いた。
珍しいことに仙蔵が私の前にしゃがみ込んでいた。
てっきり座り込んでいる私を馬鹿にするように見下しているものとばかり思い込んでいたので少しばかり面を喰らってしまう。

「お前は、私が嫌いか」
「は…?」

嫌いも何も解りきったことを何を今更。
そもそも嫌いな奴と此処まで親しく出来る程私の心は広くなど無いというのに。

「いや、良い。言わなくとも解っている。あの文次郎にも言われているぐらいだ。私とて自分で解っている。…ただ、理解をしたくないだけだということも」
「一寸待て」
「今まですまなかったな。同じ学級である以上顔を付き合わさずにはいられんだろうが、」
「待てと言ってるだろうが!」

私の言葉を無視して尚もうだうだと訳の解らない事を話続ける仙蔵がムカついたので取り敢えず殴ってみた。
あ、驚いてる。美形でも間の抜けた顔をするのか。

「先から聞いていれば何を訳の解らんことをぐだぐだと。私はまだ何も言ってないだろう?好き好んで嫌いな奴と六年も連む阿呆が何処に居る。大体だな、私がお前を嫌いだなんて何時言ったんだ。私はお前を友と思っているのにお前は私に嫌われていると思っていたのか」
「そんな、寂しいことを」

言っていて段々私が寂しくなってきた。
友だと思っていた相手がそうだと思っていなかっただなんて、阿呆みたいじゃないか。

「…嫌いじゃ、ないのか」
「また同じことを言わせるつもりか」
仙蔵を睨むように視線をやると嫌いではない、という言葉を何度か反芻して嬉しそうに口元を緩めていた。
「そう、か」
そうして、蕩けるような笑みを浮かべる。(不覚にも少しばかりどきりとした)

「ならば私のことは好きか?」

首を傾げた拍子に髪がさらさらと零れる。
光を浴びたそれは銀色や青にきらきらと輝いていた。六年前、眼を奪われた時と同じように。

「好きでなければ友人ではおれんだろう」
「友人、か。…ふむ、今はそれでも良しとしよう」
泣いた烏がもう笑う。
先までの不機嫌は何処へやら、にっこりと満足そうに笑うと仙蔵はその場に立ち上がった。
そうして私に手を差し出す。
「有難う」
「お前の誤解も解けたところで」
「私の誤解なのか?」
「マリーとやらを探しに行くか」
「おい、無視するな!というか私は佐武をだな」
「放っておけ」

おいおい、と思う間もなく掴んだ手をそのままするりと繋がれた。
そうして引っ張るようにして歩き始めた友人に、私は苦笑しながらも付き合うことを決める。
つまり、きらきらと輝く奴の笑顔に負けたのだった。





ブルー!


(ああ、言い忘れていた)
(私はお前が好きだよ)

(いじめっ子の愛情表現!)






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仙蔵は好きな子をいじめちゃうって言うのを文次郎に言わせたかったんですが入りませんでした(´・ω・`)
夢主くんは無自覚に仙蔵が好きで、実は初恋はお互い様っていうお話のつもりでした!
いつかくっつくまで書きたいお二人です◎


20110511
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