短編2

□ぱすてる
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昔は目に映る全ての物が
輝く宝物だと思えた


例えば道端に転がる
形の良い石


雨上がりに太陽に反射して
光る水たまり


アリの行列も
蝸牛の通った後の銀の道も
何もかもだ


だけど成長するにつれて
俺はそういう
“何でもない”モノを
愛せなくなってしまった


『風丸、おはよ!』


「おはよう」


だけど変わらず
大切なモノも在る


偶然、通学路で会った
幼なじみの彼女は
何時も大事だった


『考え事しながら
歩くのは危ないよ』


「ああ、」


『あと勝手に
暗くなっちゃダメよ』


「え、」


何年一緒だと思うと言われ
確かにと俺は笑う


ずっと二人だった


途中、円堂が加わって
三人になった


年を重ねても俺達は
離れなかった


『確かに年を重ねるほど
何でもないものに価値は
見いだせなくなる』


彼女に話せば
真剣な顔で答えてくれた


『だけど大切なものも
増えるんじゃない?』


「例えば?」


『友達とか、仲間とか…』


成長する事は失う事でも
心が穢れる事でもない


本当に守りたいモノを
世界から見いだし
それを守る為に
力を手にし戦う事なんだと
彼女は笑う


『小さい頃のそういうのは
守りたいモノ…大切な物を
見つける練習かもよ?』


そう彼女が言えば
本当にそう思えて
満たされなかった心が
温かくなる


「お前にはそういう
大切なものとか人とか」


『あるよ、』


数歩、先を行く彼女は
こちらを見ない


『クラスメイト、部活の皆、
ライバルだったり、笑顔、
感謝の気持ちに、円堂』


息継ぎなしに
彼女は言い切り
そして俺を見た


『一番は内緒』


風丸はと尋ねられて
俺ははっきりとは
言えなかった


俺は意気地なしだ


言葉には出来ないから
彼女に足早に近付いて
手を握った


『風丸、』


「嫌か?」


『ううん、』


驚きは笑顔に変わった
彼女もしっかり
握り返してくれた


「一番はさ、お前だよ」


恥ずかしいから
言葉にはしたくなかった


だけど本当に大切で
守りたいなら
言わなきゃいけないって
勝手ながら思った


でも恥ずかしさよりも
幸せの方が勝った


『私も……いっくんが
一番だよ』


“いっくん、あのね”


“みてみて、いっくん!!”


久しぶりの愛称が
何だかこそばゆい


本当は河川敷の辺りまでと
思っていたが
出来るだけ長く
手を握っていたいと思う



ぱすてる




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