短編2

□特効薬はキミ、
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「お前も
バカじゃなかったんだな」


何時もなら腹を立てて
言い返すのに
その元気すら私にはない


実際頭の善し悪しなど
風邪には全く関係ない


免疫システムが活発か、
そうでないか、
ただそれだけのこと


具合が悪くて早退を
余儀なくされた私は
母親とあきおにメールした


あきおは私の
幼なじみというのか
古い付き合いで
母親が居ない時は
あきおが代わりに
なんでもやってくれる


あきおに体温計を渡され
とりあえず、
ベットに転がされた


あきおは部屋には居ない


風邪を引いて
弱っているからか
体温を計るだけの
この時間ですら
孤独に思えた


永遠の奈落に
突き落とされたみたいで


「なんで、泣いてんだよ」


あきおが戻ってきたのと
体温計が鳴ったのは
ほぼ同時のことだった


「8度6分、か」


あきおはお盆を机に置き
ベットサイドに来た


『や、ひとりにしないで』


また居なくなるかと思うと
胸が酷く苦しくて、


私は彼の服の袖を掴んだ


「たく、手が掛かる奴」


口ではそう言いながら
あきおの私の頭を
撫でる手つきは酷く優しい


「ほらよ、さっさと食って
薬飲んじまえ」


差し出されたのは
小さなうどん


あきおは私が
お粥が苦手なのを
考慮してくれたんだと思う


「食えるか?」


『へいき、』


あきおはわざわざ
後ろから私を
抱きかかえるようにして
背もたれになってくれた


背中から伝わる熱に
安心感を覚えた


汁に口を付ければ
優しい味が広がった


あきおは本当に―…


『おいしい』


「不動様が
作ってやったんだ、
旨いに決まってるだろ」


恥ずかしいのか
乱暴に切り捨てる彼が
なんだかとても愛しい




薬を口に含み
水で胃に押し込む


冷たさが喉を下るのが
よく解った


『あきおは帰るの?』


「お前の母さんが
帰って来るまでは
少なくとも居てやる」


偉そうだけど
彼なりの安心しろって
事なんだろう


『あきお、』


「んだよ、」


『ありがとう、
だいすき』


「っ、」


彼の嫌いなトマトみたいに
あきおの頬は赤に染まる


「ほら、寝ろよ」


照れ隠しなのか
掛け布団を
乱暴に被せられた


「早く治せ、
悪態つかないお前とか
調子でないんだよ」


あきおは頭を
ガシガシ掻きながら
ぶっきらぼうに言う


『うん、』


薬の所為か重くなる瞼


私はゆっくり目を閉じる


眠りの世界に落ちる前に
手に感じた温もりは
あきおの優しいを
形容してる様だった




特効薬はキミ、







―眠たいのはキミの所為

だってこんなにも私は
安心していられる
身を委ねられる





「やっぱお前はバカだな、
心配ばっか掛けやがって」


あどけない彼女の寝顔を
見つめる不動の表情は
柔らかいものだった




―――――――――
デレるあきおが
描きたいのに
描けない

*


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