短編

□神様のきまぐれ
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朝のバス停には
私とサラリーマン風の男性と
男子学生の三人しか居ない


秋とはいえ、
冬は少しずつ息を潜め
空気を凍らせる


手袋、
着けてくれば良かったな


ちょっぴり後悔しつつ
呼気を手に吹きかける


これで少しはマシだろうか


英単語帳に
目を落とすのをやめ
バスが来るのを
確認する振りをして
チラリ、横を見やる


黒髪が綺麗な彼が
本を読んでいた


視線は下を向くので
うつむいている様に見えた


睫毛ながいんだよね、


そう思いながら
視線を前に戻す


神田は中学の同級生


それ以上でも以外でもない


本当は一番
仲が良かったはずなのに
ある日を境にぱったり
話さなくなってしまった


友達が神田に
告白したいからと
ラブレターを私に託したのだ


神田にそれを渡し、
差出人を知った瞬間に
目の前で破り捨てた


本当にその日から
私たちは一言も話してない


そして、気付いた


彼と話すのがどうして
あんなにも楽しかったのか


彼と話せないのが
どうしてこんなに辛いのか


単純明快、
私は彼が好きだったのだ








ウォークマンを弄り
曲を適当に選んで流した


ラビに薦められた小説を
読み始めたが
ページはなかなか進まない


朝のバス停には
俺を含めて三人


その内の一人の女子生徒が
気になって仕方ない


中学の同級生、
それでもって初恋の女


友達のラブレターを
彼女が代わりに
持ってきた日
俺は死ねると思った


恋愛対象になれなかった
それだけの事で苛立ち、
彼女との関係を完全に
絶ってしまった


幼稚としか言えない


酷く後悔しているが
現状なのだ


対象になれなくても
好きな奴と話せるか、
話せないかと言う事だけで
全然、違うのに









今日はバスが混んでいた


隣の高校が
学祭まで一週間を切り
朝の準備が解禁された
からなのだろう


何時もは座れるのに
立たなければならない


私の高校は
その学校より遠いので
立っているのは辛い


バスが急ブレーキをかけて
大きく車体が揺れた


吊革に掴まって
いなかった私は
慣性の法則に従いよろける


『きゃっ、』


誰かにぶつかってしまった


『ごめんなさい』


「お前、吊革は?」


目線を上げれば神田が居た


『え、あっ
届かなくて』


頭はスパークして
上手く働かない


どうして私は
彼と話しているのか、


「………、」


無言で彼女の手を掴み
自分の腰に回す


『え、』


「掴まっとけ」


願ってもないチャンス
逃すわけにはいかない


「嫌いじゃないから、」


パチパチと瞬きを多くして
俺を見つめる彼女


聞こえたのかすら怪しいが


『私は、好きだよ』


避けられ続けていたけど
嫌われていなかったらしい


私は思わず言葉を漏らした




冷え切った
私の手も、体も、
もう冷たくはなかった


少しずつでも昔みたいに
彼女と接する事が
出来るように努めよう


何時もより大きく響く
心臓の音





神様のきまぐれ




例えそうでも

もう少し、このままで




――――――――
一周年ありがとうございます
*

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