短編2

□キミが翼
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『キャ――プテンっ、』


「うわ、」


視界が急に暗くなり
目元に冷たさを感じた


「離せよ、」


後ろから目隠しされている


幼い頃流行った
“だれだ”遊びのよう


こんな事をするのは
幼なじみの彼女しか
居ないと解ってる


『つれないわね、拓人
そして、イヤよ』


彼女は俺が暴れれない事を
よく解っている


『泣いたみたいだけど
悩み事、拓人?』


「…何で知ってるんだ」


『目が腫れてたの…』


今、目を隠しているのが
濡らしてきたタオルと解り
俺は彼女には適わないと
密かに思う


心配してくれている


「一年生にさ、
強く言い過ぎたんだ」


“今のサッカーに本気になる
価値なんてないんだ!!”


サッカーは変わってしまった


円堂 守率いる
イナズマジャパンやイナズマイレブン
そんな俺が好きなサッカーは
腐敗してしまった


悔しくて、
力が足りなくて


『拓人、』


急に視界が明るくなり
軽い眩暈がした


タオルは温くなっていた


「……、」


腐敗したこの世界で
彼女は綺麗に笑う


穢れを知らないように
彼女は綺麗に笑う


眩しすぎるその笑顔が
憎くもあり、好きだった


『平気よ、』


再び歪む視界、


俺は涙を見せたくなくて
彼女を強く抱きしめた


「俺はサッカーを取り戻したい
夢中になってボールを
追いかけたあのサッカーを」


風が緩やかに髪を揺らした


『勝利の女神様は
諦めの悪い子が
大好きなんだって』


「ああ、」


『貴方が憧れた守さん達も
最後まで諦めなかったわ』


「諦めなければ
叶うだろうか」


『うん、』


バラバラに
なってしまいそうな感情を
彼女が在るお陰で
つなぎ止められている


抱きしめた手を緩めて
見つめ合う形になる


「すまない、」


『拓人の事は
私しか出来ないって
自負してるだけあるでしょ』


「そうだな」


「神童…って邪魔した?」


ピンクの髪が現れて
少し気まずそうな顔をした


「蘭丸、大丈夫だよ」


「そろそろ戻って
練習しないとさ」


「解った、霧野
すぐ行くよ」


「頼むぜ、キャプテン」


嵐が過ぎ去って
彼女を見れば
笑って背中を叩かれた


地味に痛いが黙っておく


『行ってらっしゃい、
頑張ってね』


「あのさ、」


“おっきくなったら
おまえをぜんこくに
つれていくんだ”


“ほんとう!”


約束だって守れてないし
直ぐに挫けそうになる俺


お前が居なかったら…

俺はサッカーを
続けてないんだろうな


「やっぱり、何でもない」


『そっか、』


伝えるにはまだ早いし
相応しい俺じゃない


だから、その日が来るまで
沢山迷惑を掛けるだろう


情けない姿を見せるだろう


「本当にありがとな!」


『いいえ!!』


ごめん、ありがとう、
お前が好きだ


何度でも立ち上がろう、
走り続けよう


『…こんな事しか
出来ないけど
負けないで、拓人』


彼女の呟きを俺は知らない


「皆すまない、
練習を再開しよう」


「「おう、」」


風が強く吹いて
俺の背中を押すようだった


キミが翼



―――――――――
PVでは泣いてた彼ですが、
作品ではどんな
勇ましい技を出すのか
今から楽しみです

*

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