(キラシン)
ドアの開く音がして、同居人の帰りを察知した俺は慌てて食べてたお菓子を隠した。しまった。帰り遅いって言ってたから油断した。
「お、おかえり!早かったんだな」
「ただい、ひっく。まー!がおー!」
そう言いながら両手を変な形に曲げて(恐らく本人は虎かなんかのつもりだろう)俺の前に現れたのは、同居人のキラ・ヤマトだった筈だ。多分。
いつもの数倍顔赤いけど。
「食べちゃうぞー」
「……」
訂正。やっぱりこれはキラじゃない。なんだこの変な生き物は。
レッドローズの誘惑
うーん、頭が痛いなぁ。
なんて言ってソファーに倒れこんだキラは非常に酒臭い。誰だこの人にこんなに飲ませたの。
「キラ、寝るんなら部屋で寝ろよ。風邪引く」
「引かないよ、僕丈夫だから」
あはははは、と何が楽しいのか1人で笑って最終的にむせた男を呆れ交じりに観察する。
確か、それなりに偉い立場じゃなかったか?キラって。こんなに酔っ払ってる姿を見たら皆将来に不安覚えるだろ。
「あー!!!」
突然叫びだされて俺は椅子から転げ落ちた。
「今度はなんだ!」
「僕のお菓子、食べちゃったんだ」
……あ。バレた。何でそこはしっかり覚えてるんだよ、酔っ払いのくせに。
「いや、それは、…」
「楽しみにしてたのにー…うぅ…」
顔を押さえて弱々しい声をあげられて焦った俺は慌ててキラに近寄る。代わりの買ってきますから、と昔みたいに敬語になってしまった。
「いらない」
「へ?」
急に視界が反転したから間抜けな声が喉から出てきた。
なんだこの状況は。何でキラが俺の上に?
「食べちゃうぞー、がおー!」
「うわ、ちょっ!やめろ酒臭い!」
「シンが僕のお菓子食べちゃうから悪いんでしょ、いただきます」
カチン、ときた。何を勝手な。
そこで丁度よくいつもなら俺より強いはずのキラの腕がふにゃふにゃなのに気付いた。どうやら酒の所為で力が入らないらしい。
それなら。
ぐるり、もう一度視界が反転する。虚ろな目のキラがふにゃ?と情けない声を上げた。
「そうですね、俺が悪いです。今日の朝俺のお菓子全部食べ尽くして仕事行ったキラよりも俺が悪い、全くその通りですね」
「あれ?シン怒ってる?敬語になって…」
「怒ってないですよ、全然。これっぽっちも。てわけでいただきます」
「わー!ちょっと待ってごめん、謝るから!僕下は嫌だな!!」
「大丈夫です。朝には忘れてますから」
「ごめんなさいシンごめんなさい目が本気だよごめんなさい明日代わりの買ってくるから!」
翌日、大量のお菓子を捧げ物として購入してきたのは果たしてどちらだったのか。
「あー…頭痛い。仕事休む」
「アホな事言ってるとお仕置きしますよ」
「あれ!?まだ怒ってるの!?」
***
<レッドローズの誘惑>
キラシン………………じゃないような(笑
(title:zinc)
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こちらも長らくお疲れさまでした!これ恥ずかしいな…