狂香's original novels

□(仮)
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「仙川が、亡くなった。」
朝学活の初(ショ)っ端(パナ)、担任が放った一言。


クラスのどよめき何て耳に入ってこなかった。

あいつが、亡くなった?
昨日迄、あんなに元気で、いつもの様に笑ってたあいつが、死んだ?

おいおい止めてくれよ。
冗談きついぜ。

まさか、本気でそんな事……


「トラックに、衝突されたらしい。
即死、だったそうだ。」

あいつは、何故自分が死んだのか、分かってて死んだのだろうか。
それにも気付かないで、死んでいったのだろうか。



その後、1時間目の授業の担当が担任だった事もあり、クラスでは席替えが行われた。

俺等のクラスは奇数人で、男子よりも女子が一人多かった。
今迄の席は男女一人ずつで隣同士に座って、余った女子が一人で座る様になっていたのだが、あいつが抜けた事によって男女比が同じになり、余りの女子席が消えた。

余った席に居た女子をあいつの席に移動させれば良かったのだが、死んだ奴の所に必然的に座らせるのは可哀相だと思ったのだろうか。
担任は、一から席替えをし直した。


俺は、以前のあいつの席に座る事になった。
隣は、以前あいつと隣だった男子。
全くと言って良い程社交的でなかったあいつが、普通に話が出来た数少ない男子の一人だ。

俺も、同志でなければ滅多にクラスの人と話さない。
この男子は、同志であるのもそうだが、昨年度迄同じ部活であった事もあり、俺でも普通に話せる奴なのだ。



そいつも含め、クラスの中は…
いつもと何ら変わらなかった。

朝、担任から聞かされたあいつの訃報に少なからず驚いた奴は居たようだが、席替えが終わった途端にいつも通りの風景が広がっていた。

笑って話をしている女子。
小学生かと疑う程馬鹿みたいにふざけ合っている男子。

授業中も、相変わらず騒がしくて。
まるであいつが皆の記憶から、綺麗さっぱり忘れ去られてしまったみたいに、何も変わりがなかった。

隣の席の男子と話をしても、あいつの話題何て一切出てこなかった。
あれだけ授業中とか休み時間とか、楽しそうにあいつと話していたのに。

あいつが死んだから、驚きとか何だとかはあるけれど、あえて口に出さない様にしている。
とかそんな所なのだろうか。


思い切って、あいつの話題を吹っ掛けてみる事にした。

「うるさいなぁ、相変わらず。」
授業中のざわつきに便乗して話し掛ける。

「いつものこ〜と!」
"(笑)"が添えられそうな口調。
こいつ特有の話し方。
相変わらず謎のテンションだ。

「あいつが居なくなったってのに、何事も無かったみたいに皆いるよね。」

お、来た。
今ピクッてなったよ、ピクッて。
やっぱり、何も思ってないとか、そういう訳じゃないんだ。

「何で、なんだろ…。」

「さ、さぁ…。」

「だって、人が一人死んでるんだよ?
普通、もっとしんみりするって言うか、いつも通りでは居られないでしょ。」

「………。」

「たしかに、あいつはクラスでもあんまり目立つ様な奴じゃなかったけど。
でもそれでも、同じクラスの仲間だったのに。」

「……。」

「あいつの事、仲間だなんて思ってなかったのかな、あいつ等。
…思ってるはずないか。
実際、友達ではなかったもんね。」

「……。」

「上山もおかしいよ。
あんだけあいつと話してたのに。
何も思わない訳?」

「おかしいのはお前の方だよ。」

「……は?」
今、何て?

「此処では。
少なくともこのクラスでは、A組では。
あいつ等が基準。
あいつ等が普通なんだよ。
だから、少数派の俺等がおかしいの。
今迄だってそうだっただろ?
世間一般から見て、あいつ等から見て、普通じゃないって思えば、――例え少数派の考えが正しかったとしても――それが間違いになるんだよ。」

「………。」
何でだろう。
何も、言い返せなかった。


実際の所、上山があいつの死についてどう思ってるのか、良く分からなかった。
"少数派の俺等が"って言ってたから、上山も俺と同じ様に思ってるのかも知れないけど、真意は分からない。
ったく、相変わらず良く分からない奴だ。



昼休み。
いつものメンバー(同志)と一緒に昼飯を食べるため、弁当を持ってC組へ。

教室に入ると、中野に「仙川は?」と聞かれた。
その場に居た人達(同志)に仙川の訃報を知らせたら、その後の、その場の空気がいつもの様に戻る事はなかった。
弁当何て、食べた気がしなかった。

この、今の俺等の反応が、普通なんだよな。
何か、感覚が麻痺してきてる気がする。
周りの環境って怖い…。

いつも横に居たあいつが音も無く消えて、あいつの存在がこうもあったかと思い知らされた。
もうあいつと、仙川といつもの様に話したり、バカやったり出来なくなるんだと思うと、何とも言えない喪失感に包まれた。
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