Snow White

□朝の散歩=冒険
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「……わ、川だ!」



イタリアにいる育て親に手紙を送ろうと郵便局に向かっている瑠璃華は、目をキラキラと輝かせた


今、瑠璃華の目の前には、並盛町で一番大きい川…並盛川が、静かに流れていたからだ

その穏やかな川の音が、立ち止まった瑠璃華の耳に届く




「ん…なんか平和って感じ…」



なんか、並盛町はそんな感じが似合ってると思う
うーん…なんていうのかな。あ、これがのどかっていうのかな?


それにしても、平和だなぁ…




「平和だなぁ…」


「それはそうだよ。僕が並盛町の秩序だからね」




突然、後ろから聞こえた声

瑠璃華が少し驚きながら振り返ってみると、昨日出会ったそのままの姿…学ラン姿の雲雀が立っていた



「……雲雀、さん?」

「やぁ」

「おはようございます雲雀さん。雲雀さんは散歩ですか?」

「僕は単なる見回りだよ。並盛の風紀を乱す輩が多いからね」

「ふーき…?」



そこで瑠璃華は、雲雀が肩にかけている学ランに、「風紀」と書かれてある腕章が付いてあることに気づいた

雲雀も雲雀で、瑠璃華が腕章を見ていることに気づくと、腕章を見ながら瑠璃華に言う




「…そういえば君には言っていなかったね。僕は並盛中学校の風紀委員長だ」

「風紀委員長、ですか?」

「そうだよ。僕の仕事はふたつ。この並盛の風紀を正し、そしてその風紀を乱す者を…咬み殺す」



ジャキッと、雲雀は愛用の武器の仕込みトンファーを構えた
…瑠璃華のすぐ目の前で


普通の一般人ならば、悲鳴のひとつやふたつあげるだろうが瑠璃華は少し違っていた




「…コレ、なんですか?なんだか変わった形をしてますね」




瑠璃華は雲雀を恐れず、そっと構えられたトンファーに触った

その反応に、雲雀は僅かに驚く



「もしかして…トンファーっていう武器ですか?」

「…そうだけど」

「すごい!私、初めて見ました!トンファーってこんな構造をしてるんですねー…」




「……君、僕が怖くないの?」




雲雀自身、武器であるトンファーを見せても恐れずに近寄って来た人間は、彼女が初めてだった


その雲雀の質問に、瑠璃華は少しキョトンして、そして少し可笑しそうに小さく笑う




「何言ってるんですか、怖くなんてありませんよ!だって雲雀さん優しいですから」

「……!」



その言葉に、雲雀は心底驚く

今まで冷徹非道な風紀委員長として並盛町に君臨してきた雲雀に、昨日転入してきたばかりの女子とはいえそんな事を言われたのは、雲雀自身初めてだった



「あの、昨日は本当にありがとうございました!おかげで私、この並盛町でなんとか頑張っていけそうです!」



頭を下げて礼を言う瑠璃華

その表情は、にこやかな笑顔で満ち溢れていた




「……君、それは」

「あっ!私、これから用事がありますからもう行きますね!見回り頑張って下さい!」



何かを言おうとした雲雀の言葉を遮り、笑顔で手を振って去って行く瑠璃華を、雲雀はしばらく見つめていた







「……僕が優しい、なんてね」



ぽつりと呟き、苦笑する雲雀


君は、何も知らないから。
この町で僕がやっていることを何を知らないから、そんなことが言えるんだよ



…だけど、君が言った言葉に僕が揺らいでないといえば、嘘になるね





天草瑠璃華。



本当にあの子は変わってる
なんだか、調子狂うよ





「…また、会いたいな」



雲雀はまたぽつりと呟き、まだほんのり明るい空を見上げた




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