*銀魂*
□朱色
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巡回ルートを少しばかり外れると川があった。
街を大きく二つに分ける其の川は浅く、流れこそ激しくはないものの
歩いて渡るには気が引ける程に幅広で、対岸が遠く小さく見える。
沖田はこのところの休憩(という名のサボり)を此処と決めていた。
周りに高い建物が少ないせいか市内よりは幾分陽当たりが良いように思うし
さわさわとはしゃぐ水面や淡い緑の芝生が何とも居心地がよい。
この日も、例に違わず逢魔ヶ時の川へと足を向けた。
時間も場所も日によって様々ではあったが、街がオレンジに染まる頃の
団子屋の目の前を選ぶことが多い。それに深い理由はない。
団子屋の軒先に出された赤い長椅子にチラと目をやると人影はなく
すぐに視線を戻して通り過ぎ、緩やかな勾配の土手に寝ころんで、ベルトに差した刀を鞘ぐるみに外した。
この所少しだけ背が高くなった芝生が頬を、土の匂いが鼻腔を撫でる。
見上げた空は抜けるように青くて、其処を流れる綿雲の白は一点の曇りもない。
ついこの前まで淡い花をつけていた桜の木も今ではすっかり緑に染まり
そよぐ風が俄かに湿気を帯びている。
そろそろ梅雨の季節が迫っていた。
「またサボってんのか、沖田君」
聞き覚えのある声が頭上から響く。
ぐんと首を伸ばし声のする方へ顔を向けると、殆ど無表情の様な表情で
此方をじっと見つめる薄紫の瞳と目が合う。
「奇遇ですねぇ、旦那」
「奇遇ってお前、ここんとこ毎日じゃねーの」
「そうでしたかねぇ?」
「そうでしたよ。」
「だとするなら、旦那だってそうでしょう」
逆さまに銀時を見上げ、ニッと口元だけで笑みを作る。
どちらが決めたというのではないが、そんなやり取りはこの所毎日だ。
だいたい沖田が先にその場所に寝転んでいて、団子の包みを片手に銀時が現れる。
別に約束をしているというわけでは無いし、双方落ち合う気など更々ない。