*銀魂*

□ある矛盾した愛情
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「殺してやりたい」

腹の上に馬乗りになって、喉下を掴んだ細い指にジリジリと体重を流し込んでくる沖田が
伴わず優しい笑みを浮かべているのを、ボウッと見上げていた。
沖田の愛情はいつも分かりやすく歪んでいて、けれどその矛先が自分に向けられる日がこようとは夢にだって思わず、
「あいてがちがう」と、乾いて張り付いた声帯をどうにか震わせて忠告した。

「ちがわねぇですよ、旦那」
いつものように呼び、沖田の指が圧力を増して咽喉を締め付けてゆくので
どうやら間違いなく自分を殺そうとしているのだと分かると、本当に滑稽な少年だと内心で笑った。

酸素の足りなくなった脳が歪ませる視界で、どうにか沖田を捕らえ
優しく弧を描いたままの小さな唇に手を伸ばす。
お前は土方を、愛憎していたじゃないか。殺したいほどに。
声に出そうとするが「なん、で」と言うのがやっとで
消えそうになる意識を繋ぎとめようと黒い隊服の襟元にしがみついて爪を立てる。

「アンタが  ほしい」
薄れていく意識の中で曖昧になって聞こえる其の言葉の意味を、うまく理解できない。
「他の誰にもやりたくねぇんです」
その為にはコレしかねぇんだ、と栗色の目が揺れて
青ざめた銀時の頬や、額や、瞼の上に少しずつ潤いをもたらしてゆく。
自分だけのものにしたいという欲望は誰もが持っている自然な愛情なのに。
年齢より幾ばくも落ち着いた大人びた風に見える少年は
その欲を満たそうとしてしまうのだから、まだ年齢通りの子供なのだと少しだけ安堵する。

「お き た    く ん」
濡れた長い睫毛を拭ってやろうと手を伸ばしてみるが
殆どの感覚を失った指はギシギシと音を立てるばかりで目的の所まで届かず
本当に、もう死んでしまうのではないかという思いが脳裏をよぎる。
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