*銀魂*

□むくちなひと
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ポッカリとくり抜いたように浮かぶ月に笑みを向けて
「それじゃあな」と呟く銀時の横顔は、ただでさへ色素が薄いのに
この時ばかりは境界線の殆どを月明かりに持っていかれ
随分と曖昧なものになっていたけれど、普段は見せない強い眼差しに
誰にも言わずに旅立とうとする其れを、もう止められないのだと思うと
全身を言いようもない痺れが支配して、呼吸の仕方も忘れ立ち尽くすしかなかった。


「どうして」


やっと音になった短い4文字にも銀時は顔色の1つも変えず
去ろうとする足を止める事もせず、又いつか会えるだろ、と
腹に力の入っていなさそうな声で不確実な事を呟き笑うばかりだった。

「泣くなよ」

いつ帰るのかさへ、ひとつ残らず教えてはくれないのに
それでも永遠では無いと云うのは気休めにしかならず
お前にだけは伝えなきゃと思って、と云う言葉さへも体の痺れを加速させて行く
ひとつの要因にしかならなかった。

銀時はそういう沖田の絶望や怒りを知っていて
それでもキチンと終わらせて去らなければいけないと言う
一種の強迫観念で此処へ来たのだろうと、沖田も俄かには分かっていた。
けれど、そんな優しさならば無いほうがマシだ。
否、そんなものを優しさや慈悲の類に勘定できる程、沖田は大人ではなかった。
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