*銀魂*

□にじむあか
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ふんわりと裾を翻して去ってゆく銀時の腕を
引きとめようと手を伸ばすと、ギリギリのところで
爪先が彼の腕に引っかり、殆ど条件反射のように
銀時が腕を引き上げるので、この所切るのを忘れていた
鋭い爪が銀時の白い肌を僅かに引き裂いてしまう。

引き止めた所で何をするというのでもない。
話したい事があったかと言えばそうでもないし
散歩に誘うつもりなどは更々もないのだ、けれど
不注意で落とした手帳を届けに来た、と言って
屯所の門を叩いた銀時に、礼のひとつもできないもどかしさが
無意識に沖田の手を動かしただけだった。

引っかかれた事に対してなのか、引き止められたことに対してなのか
驚いたように眉を顰めて振り向く銀時は
けれど薄く口元だけで笑みを繕い、何を考えているのか掴めない表情で
「なに?」と小さく言うので、爪先に滲んだ赤を手中にしまいこんで
気の利いた礼のひとつ位ないものかと思案し、黙る。

銀時について知っていることは数少ない。
なにやら攘夷戦争に絡んでいたかもしれない事や
転じ万事屋を営んでいることや、甘いものが好きだという事。
その程度の情報では菓子折りの1つも持たせるくらいの事しか
思いつかなんだが、その手の持ち合わせが沖田にある筈も無かった。
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