*銀魂*
□ドロー
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過去を捨てたのは何故か、と。
高杉の低く甘いテノールが背中から響くと、
ひた、と身に覚えのある感触が背中を斜めに走るので、
痛みが来るよりも先に、それに備えるように腹に力を込める。
ズ 、
鈍い赤をこしらえた刀が、足元の土に刺さる音がし、
程なく引き裂かれるような痛みが銀時の全身を支配すると、
殆ど崩れるように振り向き、美しい模様の着物に爪を立ててしがみつく。
が、矢張り全身をそれだけで支える事が出来ず、祈るような格好で
高杉の前に跪いた。
「過去を捨てたのは何故か」
高杉がもう一度、同じ科白を口にし、裾にしがみつく銀時の髪を
むしる様に握り締め強引に引き上げると、銀時は眉を顰めながら、
浅く速い呼吸を数度繰り返して鼻で笑う。
「勘違いすんな」
掠れた声で含むように言ってから、傍らの剣に手を伸ばし、
ゆるゆると立ち上がって、ヌバダマ色の柔らかく艶やかな髪に指を入れてやると
規則正しく整列した歯を見せ付けるように笑みを作る。
「捨てちゃいねぇ。一々思い出したりしねぇだけだ」
なぁ、高杉覚えているか?
昔この丘からは随分と綺麗な海が望めた。
夕方になると水面が眩しいくらいの光を放って、眩暈がした程だ。
今此処からそれは見えねぇけど。けど、海はなくなったわけじゃねぇ。
きっと、多分かき分けて行きゃ、変らずにそこにあんだよ。