*銀魂*

□野良猫
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小高い丘の上に1本、立派な枝垂桜の木があった。
季節外れの桜は今は青々と葉を茂らせて
重くなった枝は風が吹くたびにしなって音を立てた。
丘の上からは大江戸の街が一望でき、足元には
米粒のように遠く小さく見える人々が行き交っている。

朝はどんよりと濁った鉛色の雲が空を覆っていたが、
昼下がりの今は南向きの風が吹きぬけて、
ギラギラと照らす太陽が目の奥を軋ませた。

そんな梅雨と夏の境。

もう、旬の季節をすぎてしまった紫陽花は随分と小さく萎びてしまったけれど、
それでもまだ藍や紫のコントラストを美しく保っていた。
銀時はその中から一層紫のものを選び、その1つをパチン、と切り落とす。

「悪いな」

ひとつ貰っていくぜ、と。紫陽花の株に侘びを言って、
手に取った紫陽花を大事そうに抱え込み、枝垂桜の
根元までゆっくりと歩みを進めると、そこにそっと紫陽花を添えて、
愛おしむような目で其れを見つめた。

高杉が紫陽花を好きだったかどうかなどは知りもしない。
たまたまそこにあったのが紫陽花だったからなのかもしれないが、
大層な理由もなく紫陽花を餞に添えてやる。
紫の良く似合う男だった。

高杉の死を知ったのは数ヶ月前だ。
今となっては表ざたに関わりのない間柄だったから、
高杉の死後1ヶ月という時に事を知った。
無論。人づてに、というのではない。
その方がまだ穏やかだったように思う。
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