*銀魂*

□朱色
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銀時は、沖田のすぐ隣まで歩みを進めるとボテッと腰を下ろし
手にしていた団子の包みを二人の間に横たわる刀に沿わせるようにしておいた。

もとより、一人になりたいだの孤独に浸りたいだのと言う性分ではなく
ただ、単純に。二人共この季節のこの時間、この場所が好きなのだ。
他の誰であれば直にでも場所を変えるに事に至ったかもしれないが
他人に干渉をしない二人は気を使って沈黙を埋めるような事をせず
それがかえって居心地が良かった。恐らく、お互いに。


「そろそろ梅雨かぁ」

団子を包んでいる緑色の紙をガサゴソと外しながら遠くの空を見つめ
独り言のように放たれた銀時の言葉に、沖田は「嗚呼」と小さく返事をして
銀時の見つめる方へと視線をやった。

梅雨になったら、こうして芝生に寝転ぶことも容易にはかなわなくなる。
心地よい風は雨へと変わりジメジメと鬱陶しくて
オレンジの空も、あと数日で暗雲の立ち込める灰色の空へと変わってしまう。
そう思うと、ほんの少しだけ名残惜しいような気持ちになった。


「梅雨になったら今度は何処でサボるの沖田君」

「サボるとか人聞きの悪ぃこと言わねぇでくだせぇよ」

「え?違うの?銀さんには市民の平和を守ってるようには見えないんだけどぉ」

「もとから平和なんでぇ、俺の出る幕がねぇだけでさぁ」

「寝転んでても金が入る人はいいねぇ。銀さんなんか今日を生きるのにもいっぱいいっぱい。
明日食うのも死に物狂いよ?」

「その割には毎日団子買って食ってるじゃねーですか」

「ばっか!お前!これは唯一の楽しみなの!このために生きてるのよ。
出来たてほやほやの団子食いながら川に落ちてゆく夕日を見て
“嗚呼今日も無事に生きてたな”って実感するわけ!わかる?わっかんねぇだろうなぁ。
まぁ・・・・それも梅雨になったらひとまずお預けだな」

「嗚呼、矢っ張り」

寂しくなるなぁ、と沖田は続け浅く溜息をついた。
其れと分からない程微微たる笑みを口元に滲ませる表情は本当に寂しそうで
銀時は思わず沖田の顔を凝視し、僅かに微笑む。


「なんです?気持ち悪ぃ」

「いや〜、別にぃ〜」


ただ、ちゃんと人間らしい表情や感情を持ち合わせているのだと、意味もなく安堵した。
沖田がそうやって自分の思いや感情を表に出す事は、そう滅多にある事ではなかった。
少なくとも、銀時の知る限り。

「団子、食う?」

「甘いのは嫌いなんでぇ」

「違う違う」

こっちの。と指差す方に、普段銀時が食べている餡団子とは幾分様子の違う
真っ赤で、見るからに辛そうなな串が2本ほど並んでいた。

「これなら食えんだろ?」

口の端に笑みを滲ませ、片眉を器用に吊り上げながら問う銀時は
憎たらしいほど楽しそうな表情をしていた。


END


2008/5/10
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