交想曲・短編
□御題小説・1
3ページ/13ページ
「い、今は…」
恥ずかしそうに俯く。
これは涼が、恋人である彼女にあることを求める時の台詞。
だが授業開始まであと五分ほどしかなく、今から教室に向かわないと間違いなく遅刻してしまう。
そんなことをしている時間は無い。
「ダメ、だよ。それより早く――」
「いいだろ?」
焦っている恵とは対照的に、否定されることが想定内だった涼は、涼しい顔で彼女を見つめた。
一層赤みを増す彼女の顔に、涼は吹き出しそうになる。
初々しい、そう思った。
ほんの少しの間見つめ合っていた二人だったが、根負けしたのだろう、恵が諦めたように肩を落とし、足を崩して座った。
「…す、少しだけだよ」
そうして、自分の膝を叩きながら涼を見る。
涼は、予想通りの反応を見せる恵に内心くすくすと笑いながら再びゆっくりと寝そべり、彼女の太股に頭を乗せた。
いわゆる、膝枕状態。
昼寝をしていた涼に、恵が膝枕をしたことがきっかけで、以来たまにするようになったのだ。
因みに、あの一言を合図にするようになったのもその時である。
恥ずかしがりやな二人の、精一杯の言葉だ。
.