交想曲・短編

□御題小説・1
5ページ/13ページ

 
「…どうしよっかな…」


彼、藤谷七海は悩んでいた。

兄の知宏が卒業旅行に向かったのは昨日のことで、それから七海は愛犬と二人で過ごしていた。
両親が旅行に行ってから、兄と分担していた食事や片付け。
それを一人でやらなければならなくて、いつもより寝るのが遅くなった。
そのせいか、今日の朝は寝坊してしまい遅刻ギリギリの登校。
当然、弁当を作っている時間など無く、運悪く財布も家に置いてきてしまった。
そして、今は昼休み。

彼は悩んでいた。


「昼飯…」


唯一の楽しみである昼食をどうするかを。

別に食べなくても大丈夫かな?
今から購買行っても何もなさそうだし…――でもなぁ…。

悩みながら歩いていると、中庭に着いた。
特に目的があったわけでもないので、備え付けのベンチに腰掛ける。
空を見上げると、白い雲がふわふわのわたあめのように見えた。


「…やっぱ、腹減ったなぁ…」

「――あれ、藤谷君?」


ポツリと呟いた直後、不意に声がかかった。
それに驚き体を跳ねさせれば、ガタリとベンチが揺れ、派手な音をたてる。
倒れそうになるのをなんとか持ち堪えて、七海は声の主に視線を向けた。

.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ