*Short*

□たとえ、
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今日はキリストの誕生日、の前日――つまりはクリスマスイブ。


街の店という店はツリーを飾り、木という木は電飾をつけられ、夜には美しいイルミネーションとなる。

それに伴い街は色めき立ち、恋人達は腕を組み周りに甘いオーラを放ちながら歩く。



『はぁ…』


ついため息が零れる。


しかし、それもそのはずである。
彼女の目の前には大量に積まれた書類の山。


『…はぁ』



わかってたけど、わかってたけどね…。
つい2、3日前まで長期任務に出てたから?
そりゃあその分の書類が溜まるのは仕方ないと思うけどね…
だからって…ねぇ、


今日が締め切りってどういう事よ…!!




『はぁぁぁー…』


本日何度目になるかわからないため息をついて、彼女はペンを手にした。

そからはただただ書類を読んではサインをし、読んではサインをし、……の繰り返し。
休むことなく、ひたすらに繰り返す。



そうすること数時間。
彼女の前に立ちはだかっていた書類はなくなっていた。
まだ東と南の間で明るく大地を照らしていた太陽はすっかり西に傾き、鮮やかなオレンジ色を放ち、地平線に吸い込まれるように沈みつつある。


『…何がクリスマスイブよ!』

そう不満を吐き出すも、聞いて答えてくれる者もいない。


そうすると自然に頭に思い浮かんでくるのは彼女ののボスであり、今日のこの書類の全ての元凶であり、彼女の想い人。

つまり、ボンゴレ10代目沢田綱吉その人である。



彼のせいでイライラして、幸せを逃がしていくため息がいくつも出ているのに…。
それでもあの優しい笑顔を思い出してしまう自分は相当なのかもしれない。


はぁ、とまたひとつため息を零して今しがたチェックとサインを終えた書類をまとめる。
そしてそれを両腕に抱えると部屋を出る。
もちろん向かうはボスの部屋。

ノックをして彼の「どうぞ」と言う了承の言葉を聞いてからドアを開ける。


すると彼女の目の前に広がったのは、ニコニコと笑いながら、湯気が立つ2つのティーカップを持ったボスの姿であった。



『ボ、ス…?』
「お疲れ様、さくら」

そう言って綱吉は片手で書類を預かり、もう片方の手でカップをさくらに渡した。手にジンワリとした暖かさが伝わってくる。



『あ、ありがとうございます。』
「さくらは、俺のこと怒ってる…よね?」

綱吉はさくらの後ろにゆっくりと歩いて回る。


彼女がとんでもないです、と言葉を出す前に、でも許して欲しいな…と彼は続けた。


え、後ろを振り返ろうとした瞬間、彼女は手だけでなく体中が暖かい温もりに包まれるのを感じた。

『ボス…?』
「…仕事で引き止めておけば絶対さくらはここに来てくれるからさ…」

そう言うや否や、綱吉はさくらをクルッと自分の方に向ける。
その目はさっきのただニコニコしたものではなく、時より見せる真剣な目。



「好きだよ、さくら…」
『…っ///』
「ずっと仕事をさせてたお詫びに、このあとの時間をさくらの為に使わせてください。」
『、はい…!!』





そして私は、彼のそっと差し出す私より大きいその手を取った―――









たとえ、
(どんなにたくさんやることがあったとしても)
(こんなイヴの夜が待っているなら)
(やり遂げられる気がした)




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