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□おんなじきもち
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「近藤さん」

その声に心底驚いて近藤は振り返る。
市中見回り中、後ろから妙に声をかけられた。

いつもなら近藤が妙を見つけて真っ先に妙を呼び、そして鉄拳をくらうのだが。

いつもと違うパターンに近藤は慌てふためいた。

「おおおお妙さんこんにちはっっ!本日は大変お日がらもよくっ!!」

直立不動で、自分でも何を言っているのかわからない。
妙は口元を手でおさえながら、くすくすと笑った。

「私から話しかけられると、どんな風になるのかしらって、おりょうに言われたから」

「それだけです。じゃあ」

妙はにっこり笑って立ち去ろうとする。

「お妙さんんっ!!」
近藤は慌てて妙を追いかけた。
一瞬ではあったが、妙から話しかけてもらえた事が近藤にとっては有り得ない程幸せだったから。
例えそれが、おりょうにけしかけられた事であったとしても。

妙の拳が近藤のみぞおちにのめり込む。

「そっ…それでこそっ…お妙さ…!」

げほげほとよろけながらも近藤は嬉しそうに笑顔になる。

妙はくるりと背を向けて歩き出す。



「近藤さん、どうだった?」
近くで妙を待っていたおりょうがからかう様に妙を覗き込んで言った。

「どうもこうも、嬉しそうに笑ってたわ。拳くらっても笑顔で」

「あんな事位で、馬鹿みたい」
妙はぶっきらぼうに答えるとすたすたと足早に歩き出す。

「ちょ…待ってよ!お妙!」
おりょうは慌てて追いかけて妙の顔をちらりと見て

「…ふーん…」
そう言って笑った。

「何よ、気持ち悪い」
妙はおりょうに呆れた顔で言った。

(お妙も充分嬉しそうじゃない)
その言葉は飲み込んでおく事にした。自分にも拳が飛んできたらたまらない、と思いながらも

おりょうもまた嬉しそうに笑った。


Fin
 

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