有り難き家宝
□うたたね
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「そういうお妙さんは、何やってるんですか?」
もう呼び名を訂正する事を諦めた妙は、ため息混じりに籠をぶらぶらとゆすった。
「今日は良いお天気で風もあるから、お昼前に洗濯物を取り込もうと思って」
あぁ、と近藤は頷いた。
妙は今朝も早くから、庭の物干し台の下にいた。
この気候ならもう、全て乾いているだろう。
「俺がやりますよ。お妙さんは座ってて」
「それくらい、私できます」
「まあまあ」
半ば強制的に置いていかれ、妙は夫の部屋に続く縁側に腰を掛けた。
振り返れば、手入れを放棄された虎鉄が、部屋の隅にひっそりと佇む。
「……」
それから妙は、長身の夫が次々と洗濯物を外して行くのを眺めながら、小さく欠伸をした。
何もせずただ座っていると、急に眠気が襲って来る。
「あれ、眠たいんですか?」
目をこする妙に、ひと仕事終えた近藤は尋ねた。
「ん…最近眠くて仕方がないんです」
「そうか…今はそういう物かもしれませんね。休んでいいですよ!」
「だって、昼の食事の時間なのに…」
「そんなの、俺はカップ麺とかでいいから。お妙さんもいいでしょう?」
「でも、栄養が偏るわ」
近藤は洗濯物で一杯になった籠を足元に置き、やれやれ、と妻の隣に座った。
「じゃあ、俺ネギでも刻むんで。
それとか玉子(生に限る)とか入れて食いましょ。それでオッケーれて食いましょ。それでオッケー!
だいたい最近のお妙さん、栄養だのバランスだの気にし過ぎだから。
それじゃストレス溜まって、逆効果になっちまうから!」
なおも食い下がろうとする妻の肩に、近藤は手を置いた。
「それに、頂き物の夏蜜柑。あれが厨にまだあったでしょ。ああいうさっぱりした物だったら、きっとお妙さんでも食べやすいし」
「…でも…」
近藤は歳に不釣り合いな、いたずらっ子のような笑顔を妻に向けて、こう言った。
「ね。お母さん!」
「………」
赤くなった妙は、もう降参、とばかりにその場に腰を下ろした。
両の手のひらで、下腹部を庇いながら。