短編

□青春だ、少年
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学校の隠れた場所にある庭園。

ほとんどの人が場所を知らないから、

“秘密の花園”

なんて呼ばれている。

いつも通らない道を選んだら、

たまたま、その庭園に着いた。

桃色の薔薇がたくさん咲いていて、

純粋に綺麗だなぁなんて思っていた。

庭園の中心部には噴水があり、

その近くには白いベンチがあった。

そっと、近づいてみると、先客が居た。

鎖骨にかかるくらいの栗毛色の髪、

どうやら眠っているようだ。

見たことない奴だなと思いながら、

その生徒の前にしゃがみ込み声を掛ける。

「おい」

『ん…』

ゆっくりと瞼が上がる。

数回瞬きをして、俺の目を見る。

視線があった瞬間、ドキリとした。

所謂、一目惚れというヤツだ。

『ぁ、あたし、また寝てました?』

ふわりとした優しい声色。

「随分、気持ちよさそうに寝てたぜ」

そう言うと、彼女は頬を染める。

『私以外に、ここにいる人、初めて見ました』

「“秘密の花園”なんて言われるような場所だからな」

『え、そうなんですか?』

「あぁ。あ、隣いいか?」

『どうぞ』

彼女はレイラというらしい。

同じ学年だが、クラスが違う。

そして、最寄り駅が同じということも分かった。

俺たちはすぐに打ち解けた。

『ということは、ルーシィの居るクラスか…』

「ルーシィのこと知ってるのか?」

『よく図書館で会うから。同じ本をどちらが早く読めるか勝負したりもしてるのよ』

「へぇ」

最近、休憩中にあいつが本を読んでいるのはそういう理由からか。

『ほぼあたしが勝ってるんだけどね』

得意気に彼女は笑う。

「あいつより早く読めるのか!?」

『だいたいはね。ケム・ザレオンの作品だけは勝てなかったけど…』

「あいつ、大ファンだからな」

『勝負が終わってから、そのことを言ったのよ』

「はは、ひでぇな、アイツ」

『でしょー』

そう言いながらもクスクス笑っているところを見ると、

相当仲が良いと見えた。

『あぁ、もう、こんな時間!』

「帰るのか?」

『うん。急がないと本屋さんしまっちゃうから』

「レイラは本当に本が好きなんだな」

『うん!』

楽しそうな彼女の笑顔を見て、

「オレも本読もうかな…」

と、小さく呟く。

どうやら、その言葉は彼女の耳に届いたらしい。

『じゃあ、一緒に本屋さん行こうよ?』

レイラはオレの発言に嬉しそうに微笑む。

「あぁ」

オレはレイラと一緒に花園から抜け出した。


青春だ、少年
(もっと、もっと、君のことを知りたい)

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