無題の話
□ケシゴムの話
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ある日、ケシゴムを拾った。
今まで使っていたものは小さく、消しづらかったので、そちらはおさらばし、ありがたく頂戴することにした。
「あれ……」
だが、そのケシゴムは文字を消さなかった。
感触は確かに消しゴムであるのに、どれだけ紙の上を滑らせても字を消すことはおろか、カスさえ出ない。
「なに、これ……」
仕方なく、その日の帰りに家の近くの文房具屋に行くことにした。
文房具屋によった帰り道のことである。
道端に猫が横たわっていた。
ピクリとも動かない
猫が絶命していたのは車道の真ん中だった。
つまり、そういうことだろう。
動物好きの心が痛むが、あの猫にしてやれることは何もないようで、すごく、嫌な気持ちだった。
「あの猫、」
すぐ後ろから声がした。
振りかえると背が高めの男がいた。
「うめて、やりませんか?」
細かいことは全部すておき、反射のようにうなずいていた。