お題

□異論は認めない。
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「おい越前…あれ跡部さんじゃねぇか?」

「…うわ、本当だ」

何故か練習中に、氷帝の部長である跡部景吾がフェンスの向こう側から、こちらへ来いと手招きをしている。

視線が真っすぐ自分に突き刺さっているのを感じて、リョーマは不二の後ろへと隠れた。

すると許可も取らずに、跡部は俺様顔でコートに入ってきた。

「おい跡部!」

手塚の制止もお構いなしという様子である。

「ねぇ跡部、越前が怖がっているじゃないか。半径5メートル以内に入って来ないでくれるかな?」

「残念だが俺は測りを持っていない。だから5メートルと言われてもピンと来なくてな、すまない」

誰が聞いてもイラっとくる。

ドヤ顔でそんな事を言い放った。

「本当に…君を見ていると苛々するよ」

そう言った不二先輩の背中から、何か黒いものが出ているように見えたのはきっと俺だけじゃ無いはずだ。

さっきまで近くにいた桃先輩や英二先輩はもう既に巻き込まれないようにと俺から離れていた。

それに大石先輩と河村先輩は心配そうな顔をしている。

海堂先輩も勝手にランニングへと行ってしまって、乾先輩はデータデータとノートに何かを書いていた。

「ふっ、お前には俺様の素晴らしさが理解できないみたいだな」

「理解したくも無いね」

どうやらこの状況を助けてくれる人は不二しかいないようなのだが、平穏には終わりそうにない。

そう思うと目眩がした。

「…ふん、まぁ良い。ところで越前、いつまで隠れているつもりだ、あーん?」

「跡部さんが帰るまでッス」

「随分と生意気な奴だ」

「…何か用があって来たんでしょ?」

「あぁ、その通りだ」

「部活も引退しちゃってすっかり暇人なんだね」

「うるせーよ、後輩指導だって暇じゃねぇ」

「じゃあ今日は何故?」

「…まず、その男の背中から出て来い」

「お断りだよ」

そう言ってべー、と舌を出したらいきなり腕を掴まれた。

不二もあまりに素早い跡部の動きに反応できずに舌打ちをした。

「越前に触らないでくれないかな?」

「断る」

そう断言して不二の後ろからリョーマを引っ張り出そうとしたが…。

「痛っ…痛いっスよ先輩!」

不二に反対の腕を掴まれて綱引き状態になってしまった。

「ごめんね、越前。…ほら、痛がってるじゃないか、さっさと離してくれないかな」

「お前が離せばいいだろ」

「さっきから思ってたんだけどさ、僕の事お前って…何様?」

「俺様だ」

「あー、もうムカつく!」

どうしようか、こんな不二先輩初めて見た。

さっきから不二と跡部の会話に挟まれていて、恐怖やら何やらで頭が痛い。

こんな事が何分も続くのなら、いっそ跡部の話をさっさと聞いて帰ってもらえば良い。

「不二先輩もう大丈夫っスよ、ありがとうございました」

「どういう意味だい、越前?」

さっきより少し腕を掴む力が緩んだ。

「さっさとこの人の話聞けば良いんスよね、帰ってもらって早く練習したいし」

「越前が…そう言うなら、まぁ良いけど」

そう言って掴んでいた手を離した。

「始めから素直にそう言っていれば良かったんだ」

「跡部、煩い」

「んだと!?」

「落ち着きなよ…それで、話は?」

ちょっとこっちへ来いと、腕を引かれてコートの外へ連れ出された。

最後まで不二先輩は跡部さんの事睨んでいたけど。

「…それで話…っ…!?」

コートから少し離れた場所へ行くと、黒いスーツを着た男2人に掴まれた。

「ちょっ…何するのさ!」

「ちょっと強引だがな…」

すると白いハンカチで口と鼻を押さえられた。

ああ、こんな漫画みたいなことってあるんだ…。

リョーマは薄れていく意識の中でそんな事を考えていた。
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