日常的な志摩くんと私

□あの気持ちは多分
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Side 廉造



『それでね「…葵?」


僕と葵さんが話をしていると、どこからか聞いたことのある声がした。

その声がした方を見て少し嬉しそうに笑う彼女。



―――ズキン



「そう言えば葵と志摩は同じクラスだったんだな」


そう言って近づいて来る奥村くん。

どこで知り合ったのかは知らないが、人当たりの良い奥村くんの事だから最近知り合ったばかりでもこの調子なんだろうと自分の中で納得する。

―…が、彼に笑顔を見せる彼女に今まで感じたことの無い感情が胸を掻き回した。



―――今更なんねんなぁ



『そう言えば燐くんケガ、大丈夫?』

「あぁ、葵のお陰だな。昨日は本当にありがとな」



燐くん。

葵さんがそう言った瞬間、僕は無意識に彼女の手を取り歩き出していた。


『……志摩くん?…あー。燐くん、またね』

「おう、じゃーな」



そんな二人のやり取りを耳にしながら僕は足を進める。


“燐くん”


奥村くんの事をそう呼んだ彼女の声が頭の中で木霊する。



『……志摩くん?』


彼女に名前を呼ばれてハッとする。



――葵さんに心配かけとる。


そんな思いさせるつもり無かったのに。



「いやぁ、焦りましたわ」



だから僕は嘘を吐く。



「近くに蜘蛛がいてはりまして。怖くて葵さんまで引っ張って来とりました」


そう言ってははっ、と笑う僕。



『そっかー。志摩くん虫、苦手だもんね。私もだけどさ』



僕を見てふっと笑う彼女に胸が音を立てる。



――これで良い。



そう、自分に言い聞かせて自分の気持ちを心の奥に押し込んだ。






【あの気持ちは多分“嫉妬”】



(葵さん、嫌や無かったら僕のこと名前で呼んでくれへん?)
(え!?い、良いの!?)
(もちろん、葵さんが良いなら)
(ぜ、ぜひ!!)
(ほんなら今度からよろしゅうな)





Next to the end.

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