犬かごWebアンソロジー
□子夜の閨
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「……!」
外を見ていると、何やら違和感。どうやら髪の毛を触られているらしい。しばらく放っておいたが、一向に止める気配がないので後ろを振り返った。
「……どうした」
「んー…綺麗だなあ、って思って」
月明かりに照らされてか、銀色の髪の毛はそれを反射して輝いているように見える。
「そうか?」
「そうよ」
かごめはさらさらと指の間を流れる髪の毛の感触が気に入ったらしい。しばらく触られていたが、別に悪い気はしないのでされるがままにしておいた。
「ねえ、犬夜叉」
「あ?」
静かに、それでもその声音には微かに楽し気なものが含まれていて。その声に何かを期待する気持ちを抑え、素っ気なく聞き返す。
「私たちも何か語らない?」
なおも俺の髪の毛で遊びながらかごめはそう提案した。
「ほら、想い出話なんてそうそう出来ないじゃない」
「俺は構わねえけど……」
「本当に!じゃあ何から話そうかしら!」
そう言いながらかごめはベッドから降りて俺の隣に座った。嬉しそうに身を寄せてくるものだから一気に体温が上昇していくのが分かる。
「そうねえ、じゃあ皆との出逢いの話をしましょ!」
「ってゆーと、最初は…七宝の奴か」
「雷獣兄弟との戦いもあったわね」
「ああ、……」
そうだ、思い出した。あの時、飛天に勝てたのはお前が殺されたと思ったからだった。結局狐火のお陰で助かったみてえだったけど。
恥ずかしい話だ、と口元に少しだけ苦笑を浮かべる。
「そういえば、あの時犬夜叉怒ってたみたいだけど」
「……忘れろよ、んなこと」
「嫌よ、だって嬉しかったもの」
あんなに強く手を握ってくれたこと、とはにかんで微笑むかごめ。理由を話すわけにもいかず、かといって無視できるはずもなく。
「……要はお前が無事で良かった、っつー話だ」
「何よ、それ」
「で?次は弥勒か」
クスクス笑うかごめを横目で眺めながら話題を変えた。
「あの野郎は、最初(はな)っからスケベだったからなー」
「そうよね!その性分は今でも健在だけど」
二人で顔を見合わせて笑い合う。その顔を見てあの時のやりとりを思い出した。